take me out
happy (ぺージ5/12)
今日という日に何も触れてこない名無子に、心の中で苛立たしく反発していると、名無子が視線をあげて俺のことをまっすぐ見た。
「あの、シカマルさん」
「あぁ?」
首をかしげる俺の前に、名無子は右手に持っているモノを軽く持ち上げて見せた。
「花火持ってきたんです」
「は? 花火?」
高めの声で答えながら、名無子の右手に目を走らせる。
その手には、何種類かの手持ち花火がセットになって詰め込まれたパッケージが握られていた。
どうやら今からそれをやろうってことらしい。
でも、俺は、名無子を待ち続けたうえ、祝いの言葉さえかけてもらえず、機嫌を損ねまくっている。
素直に賛同するどころか、意地の悪い口調で名無子にケチをつけた。
「花火って、お前……。もう9月下旬だぞ? 時期外れもいいところだろーが」
「ほんとは私も8月中にやりたかったんですけど、お互い任務で忙しかったじゃないですか。だから今日になっちゃったんです。やりませんか、花火?」
「やりませんかってなぁー。秋に花火ってどーなんだよ? ススキや月見のシーズン到来してんだぜ? ちょっとは風情ってもんを考えろよ」
「……そうですか」
名無子は静かに答えると、諦めの表情を瞳に乗せ、ほんの少し目を伏せた。
その姿に俺の胸がズキッと痛む。
あぁ、ちょっと言い過ぎだ。
休みだった今日、夕方現れたコイツに腹が立って、乱暴な言葉を次々投げたけど、こんなに当たるのはやっぱりひどいと思う。
第一、俺は名無子のこんなさびしい顔を見たかったわけじゃないんだ。
俺は座っていた板間から、よっこらせ、と立ち上がった。
ふっと名無子の視線が俺の行動を追うのがわかる。
あえてそれに気付かぬふりをして、俺はそっぽを向いたまま名無子に告げた。
「ったく、めんどくせぇーな。ちょっとそこで待ってろ」
何も言わない名無子が、その沈黙で俺に何をするつもりなのか雄弁に問いかけてくる。
その問いごと、俺は名無子に背を向けて、
「バケツ。終わった花火入れんのに必要だろ? 持ってくるわ」
俺は家の中へと姿を消した。
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