鬼滅の刃短編小説 | ナノ



広がる一面の雪景色と空の境目が分からない程に雪が降り続いていた。
白息を吐きだしながら、さくりさくりとまだ柔らかい雪を踏みしめて、煉獄は灰色の景色の中を平時と同じように歩いていく。

雪の日は危険だ。特に、昼間でも雪の降る今日みたいな日は。
陽光の差さない場所は当然、鬼にとって恰好の餌場になる。鬼殺隊はいつにも増して身を引き締め鬼殺に当たらねばならない。ことさら、煉獄達柱は担当区域も広げ、不眠不休の活動も余儀なくされていた。

この雪が降り続けて、今日で一体何日目だろう。

鋼の精神を持っている筈の煉獄も、眠らず休まずで迎えた四日目の朝は流石に応えた。
凍てついた空気が肺をきりきりと痛めつけ、一歩踏み出す度に視界がぐらつく。腹も減った。

肩に降り積もった雪は大した重さではないのに、今の煉獄には鉛の重りのように感じた。
一体今が何時なのかもわからずに鬼を探して彷徨っている様は、端から見れば己が鬼のように見えているかもしれないなと自嘲気味に笑った。

目が霞む。限界が近い。
俺が探しているのは、本当に鬼だろうか。
何を探してこんなところまで来た?思い出せない。
ここはどこだ。

『煉獄さん』

彼女が俺を呼ぶ。
そうだ、この声を頼りに来たんだ。
君もまた、この雪のような色の刀を振るっていたな。

『お願いします』

何をお願いされたのか。
もう随分昔の事だ、君が何を言い、俺がそれを叶えたかも覚えてはいない。

『頸を』



「名前!!」

茫洋と広がる雪景色の中に己の声が響き渡り反響した。
とうとう雪の上に膝をつき、その場に虚脱した。

可哀想に、あの子はそうだ、鬼にされてしまった。己で頸を斬る事すら叶わず、俺に、嗚呼、助けを…。
俺はあの子を斬ってやれなかった。あの子は、俺の刃に救いを求め縋りついていたのに。
震える両手で顔を覆う。
ああ、どうして、どうしてこんな事を思い出す、あの子は日に焼かれて死んだだろう。

違うのか。

顔を上げ途方もない雪の景色を見回す。
いや違う、これは夢だろうか。
手をついた雪には確かに感触がある。体の疲労も、凍てついた空気も本物だ。

本当に?

勢いをつけて立ち上がる。今来た道は?どこから来た?前も後ろもわからない。全てが白い世界だ。ここは、なんだ。どこだ。

『煉獄さん』

彼女の声がする。
はっとして右手を見ると折れた日輪刀を握っていた。

『いかないで』






「名前」

彼女の声はもう、聞こえなかった。音もなく雪が降り続ける。
受け入れるように空を仰ぎ、その場に立ちつくす。


雪は全てを包み込み、ついに何もなくなった。






Title:誰も死なない様





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