オレンジ・スプリング [ 1/1 ]
目を奪われたのだ。
オレンジ・スプリング
私の通う誠凛高校は新設で、私の代が一期生だから先輩というものがいない。まぁだから選んだのだけど。 小さい頃から二つ上の兄貴を見ていたから、先輩というものがどれほど怖いものか嫌というほど知ったのだ。
うちの兄貴はかの帝光中バスケ部だったのだが、兄貴のしごかれ方がハンパじゃなかった。まぁそのおかげなのかなんなのか、うちの兄貴は一軍に上がれたのだが。結局なんだかんだ言いつつ才能もあり努力もしていた結果だろう。 しかし当時の私にとって、兄は絶対的存在だったのだ。大きくて頼りになる兄貴が部活から帰って来る度に弱音をバンバン吐く…それを聞いていた私は『先輩』というものがいかに恐ろしいかのイメージだけが脳内に染み着いてしまった。
中学のうちは兄貴に憧れ帝光に入ったが、部活には恐くて入れなかった。そんな私のあまりにもな『先輩恐怖症』を見かねた兄貴が、この高校はどうだと差し出してきてくれたパンフレットが誠凛高校だったのだ。 それからは先輩に怯えることなく、私は美術部に入部して楽しく過ごし、あっという間に一年が経った。
今の季節は春。後輩が出来る季節だ!
中学時代は部活に入っていなかったからもちろん顔見知りの後輩などほとんどいなく、強いて言うなら幼なじみとその愉快な仲間たちくらいしか知り合いはいなかったのだ。 そして今日は部活の勧誘会!…だから、胸を弾ませて学校にやってきたわけなのである。
そこで私は見てしまった。
大きな赤色の、虎を。
13,03,17
[*prev] [next#]
|