「ごめん、」
「……………」
あ、駄目だった。そう思った。
一松が静かに涙を流して、泣いてなんかねーよ雨だよなんて下手な嘘吐いて。本当にこの人は不器用だなぁなんて思ったら愛しくなって笑みが溢れた。だけど一松が次に吐き出した言葉は、私が欲しかった言葉ではなく。俯きながら「ごめん」と小さく零した。ああ駄目だ、私も泣きそうになる。泣きたくない。唇をきゅっと噛みしめて必死に堪える。
「…ごめん、」
もういい、もういいよ。
「ごめん、俺」
「一松、わかっ」
「俺ほんとに、情けないくらい、お前のこと心底好きみたい」
へっ、と間抜けな声が出た。今何て言ったの。だって、ごめんって。何度もごめんって。一松は先程とあまり変わらない表情で、今聞いた言葉が本当に嘘みたい。
「…雨で、聞こえなかった」
「………」
一松は少しむすっとすると目線を泳がせて、「だから、」と少し大きな声で続けた。さっきはさらっと言ったくせに、今度は少し声が震えてる。
「俺は、るりのことが…好きって、こと」
「………雨で聞こえなかったから、もういっ、」
「あー、もう、うるせえ」
強引に手首を引かれ、一松にキスをされた。あ、一松の匂いだ。久々に一松に触れて、匂いを感じて、唇も心臓も思考も全部一松に奪われて。私の中が一松でいっぱいになる。
こんなこと、できるキャラじゃないくせに。それなのに、そんな一松にドキドキしてまた一松のことが大好きになってしまった私も私だ。