視界には俺を真っ直ぐに見つめているるり、嗅覚は雨の匂いでいっぱいだ。聴覚は…さっきまで屋根から滴る水の音や雨の音。けど今は何も聞こえない。
「あのね、」
頭の中も思考も真っ白になった俺に、るりが伏し目がちに言葉を放った。
「わたし、今から我侭言うね。」
俺が何も言えないまま立ち尽くしていても、るりは構わず続ける。
「わたしね……一松に、愛されたい」
こんなのは初めてだった。心臓が一瞬止まった、かと思う程の鼓動。人生でこんなことを言われたのは初めてだったし、きっと今後もない。いや、絶対にない。俺を、必要としてくれるなんてこと。俺なんかに、愛されたいなんてキチガイいるはずがない。もし本気で言っているんだったら、目の前の奴は相当な阿呆だ。
「わたしずっと嘘ついてた。寂しい癖に平気なふり、してた。誰かに愛されたかった。必要とされたかった。誰でも良かった。…けど、今は違うの。一松に愛されたいし、一松のこと愛したいの。」
「…俺、なんかよりおそ松…」
「一松が、いい。」
俺の言葉をかき消して、強く主張するように言った言葉が俺の心臓を掴んで離さない。
「何で泣いてんの、泣き虫」
るりが手を伸ばして俺の頬に触れる。長時間待っていたその体は冷えきっていて、掌も冷水みたいだ。俺何やってんだよ。こんなに冷たくなる程待たせて。
「泣いてねーよ…雨、だよ」