「何、おまえ」
「えっ」
「何時間待ってんだよ」
本当は居てくれて嬉しかった。待っててくれた、何時間も。きっと寒かったし、夜の公園にひとりで怖かった筈だ。抱きしめたい。それなのに。
「おそ松兄さんとはうまくいってんの?まあどうでもいいけど」
「一松」
「おそ松兄さんに飯作ったんだ?美味かったって言ってたよ、良かったね」
「…一松」
「あとお前のこといい匂いするとか言ってたけど、あの人変態だから気を付けた方がいいよ」
あれ、何だこれ。これじゃ俺が嫉妬してんの自分からバラしてるようなもんじゃん。そんな厭味ったらしい俺に構わず、るりは俺の名前を呼ぶ。俺、何の為に走ってこいつに会いに来たんだよ。
「一松」
「ああ、俺に構わず二人で仲良く、」
「好き」
言い終わらないうちに、るりの言葉が遮る。聞き間違いか、今の言葉はやたらとはっきりと聞こえた。そこで漸く俺はるりの顔を見た。彼女は今まで見たことがないくらい柔らかな表情をしていた。けど瞳は凄く真剣で、俺を真っ直ぐに見つめている。
「は、はあ?何言って、」
「聞こえなかった?だったら何度だって言う、届くまで言う」
「いや、だから」
「好き、好きだよ、一松が」
雨音も、道路を走る車の音も聞こえなくなって、俺の頭の中にはるりの言葉だけが残っていた。