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「あの…庇ってくれてありがとう」

おそ松くんが一松に殴られて公園から出て行った後に、乱れた服を直す。一松は何か考えこんでいるのか、「いや…別に」とだけ言って黙ってしまった。取り敢えずアパートで話そうと一松を部屋に入れた。たった数日会わなかっただけなのに久しぶりに感じる。

「今日は…ごめんなさい、酷いこと言って…。私、勘違いしてて…お店には会いに来てくれたんだってね…」

一松は全く私の方は見ず、視線を外したままでこっちを見てはくれない。どこかバツの悪そうな、気まずそうな顔をしたまま黙っている。

「……るり」

漸く口を開いた一松は、今度は私をしっかりと見つめている。こんなに真剣な一松は見たことが無い。だけど、一松が放った言葉は予想外なもので。私の心が抉れるんじゃないかと思うくらいに。

「もう、こういうの辞めたいんだ」

「…え」

「俺達の、関係」

辞める…?関係を?じゃあもうこうやって会ったりセックスしたりご飯作ったり一緒に寝たりテレビ見たり、そういうの全部できなくなるってこと…別れるなんて言葉、合わないよね。私達付き合ってないんだから。それでも…私には「別れる」という言葉がしっくりきた。一松は、ずっとそうしたいと考えていたんだろうか。飽きた?好きな娘でも出来た?お金がなくなった?ううん、そんなのどうだっていい。私、一松と一緒にいられるならそれで…。

フローリングの床にぽたぽた、と涙が零れた。一松はぎょっと驚いた顔をして困惑している。

「何で…泣いてるの」

何でって、そんなの一松が好きだからだよ。好きだけど、もう会えなくなるからだよ、ばか。

どこへ行くかも考えずに、アパートを飛び出した。玄関のドアが閉まる前に、後ろで私の名前を呼ぶ声が聴こえた。


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テーマ「人外ファンタジー」
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