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「じゃあね」の一言が、「それじゃまたね」といつも交わすものとは違って。鉛みたいに重くのしかかった。それはきっともうるりとの関係は終わってしまったんだと、そう感じさせる「じゃあね」だった。とぼとぼと家に帰り、晩飯出来たよと言われたけど食欲がない。…るりの飯が食べたい、なんてふと思う。あー、もう会えないのかな。るりの作った飯も、るりに触れることも。当たり前になっていた事が、るりと会えなくなることで沢山消えていく。

深夜、携帯のバイブレーションが震えた。ディスプレイを見ると「るり」の文字が大きくあり心臓がどくんっと跳ねる。出るべきなのか、手の中で震え続ける携帯を暫く握りしめ躊躇しつつボタンを押した。

「も、もしもし?」

機械越しに聞こえるるりの震える声。数時間前に聞いたのに、あの時聞いた冷たく突き放す様な声色ではなくいつものるりの声だ。会って話したいことがある…それがどんな内容なのか頭の中はそれでいっぱいで、だけどまたるりに会える。それが嬉しかった。もしかしたらこれがチャンスかもしれない。例えもうこれで終わりにしたいと言われたとしても、俺の気持ちを伝えれば何か変わるのかもしれない。まずはこの前のこと、今日謝れなかったから今度こそきちんと謝ろう。

玄関を出てるりのアパートへと向かっている途中、るりの声が聞こえた気がした。気のせいか?通り過ぎざまにちらりと見てみた。何だ、カップルかよ。そのまま通り過ぎようとした時。

「…っや、おそ松く…!」

るりの声だった。聞き間違いでも気のせいでもない。そして彼女が呼んだのは自分の実の兄の名前。


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テーマ「人外ファンタジー」
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