05
「百瀬さん、トイレ掃除してきてもらえる?」

「あ、はい…」


店長に掃除を頼まれ、その場から逃げるように立ち去った。背中に六人の視線を感じながら。

女子トイレを済ませて男子トイレの掃除をしている時、キイ…とドアを開ける音が聞こえた。あれ、確か清掃中の看板置いたはずだけど…。振り向くと昨日と同じ紫のパーカーを着た「松野さん」が立っていた。


「っ、あの清掃中で…」

「ふーん」


声はかけたものの、出ていってくれる様子はない。
この人だ。この人とは…二人きりにはなりたくない。何をされるか分からないし、何を考えているのかも分からない。それにこわい。もう掃除も大体終わったし残ったところは後でやろう。とりあえずここから逃げ出そうと掃除用具を片付けて出ようと彼の脇を通り過ぎる。

バン、と彼の腕がわたしの進路を塞ぐようにして壁に手をついた。驚いて「ひゃっ!?」と間抜けな声が出た。


「通して下さい」

「………」

「あの…っ!昨日、の…あなたです…よね」

「…へえ、よく気付いたね」


にやりと笑うとわたしを見下すようにして目を細めた。わたしがきつく睨むと彼は更に口角をあげた。


「なんで…あんなこと…」

「面白い玩具が出来ると思ってさ」

「…っ!最っ低」


ひどい言葉を投げつけられ、瞳にじわりと涙が滲む。泣くもんか。悔しくてこいつの前じゃ泣きたくない。


「ああ、警察に言う?いいよ、好きにすれば。まァ、そうなったらこれ、ばら撒くことになっちゃうけど」


そう言ってジャージのポケットから取り出した携帯のディスプレイに写っていたのは、信じられないもの。服が乱れ、体液まみれになった霰もない無惨な自分の姿。情事後の姿だった。いつの間にこんな…。絶望を感じ声も出ず立ち尽くす。


「あ、怯えちゃった?大丈夫、俺優しいからばら撒いたりなんかしないって。俺の玩具になってくれればいいんだから」


もう、自分の人生が終わったような気がした。あんな恐ろしい体験を、今後幾度となく繰り返すことになるのか。


「それじゃあ…まずは舐めてくれるかなァ?」


紫のパーカーを着た彼は、昨日と同じ悪魔みたいな顔で舌舐りをして笑った。
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