54!
番外編
本編のその後です


「いち、まつ」

狭いアパートに響いてすぐに消えた、一松の名前を呼んだあたしの声。一人分のベッドに二人分の重さがのしかかって軋
む。あたしの顔の両脇に腕を立てて馬乗りの状態の一松は、この体勢から動かずにいる。少し不安になって彼の名前を呼んだのが先程。

「もしかして、緊張…してる?」

「……悪いか」

一呼吸置いて一松がぼそりと呟くように答えた。拗ねた子供のように唇を尖らせている。何度も身体は重ねたけど、お互いの気持ちが一つになって同意の上でするセックスはこれが初めてだった。だからあたしも少し緊張してる。以前なら考えられない一松の姿にくすっと笑みがこぼれる。むっとした一松が可愛いな、なんて。


「ううん、悪くない。嬉しい。こうやって一松は優しく触れてくれる。大切にしてくれてるって分かるから」

「…俺は、弱虫だから…こわい。理性がとんでるりを傷付けたらどうしようって…また拒否されたら…」

「一松」

ひんやりとした肌の一松の頬に手を添えて言葉を遮った。不安そうに揺れる一松の瞳をじっと見つめて「大丈夫、大丈夫だから」と囁いた。


「一松がもし理性をなくしても、乱暴にしても、あたしは一松を嫌いにはならない。一松があたしを想ってくれているの知ってるから。だから大丈夫だよ、一松の好きにしていいよ。」

「……はあ、お前…あー、人が折角頑張って理性保とうとしてるってのに」

溜息をついた後に一松の顔が近付いて、優しくキスをされた。ゆっくりと唇が離れて切なくてきゅんとする。
一松のゴツゴツとした手が脇腹を這って下へと向かっていく。好きな人に触れられただけで擽ったくて身体を捩る。急に膝裏を掴まれると両足を開かれ、下着をつけていないそこは丸見えになった。

「ひゃっ!」

「…恥ずかしい?」

「〜っ!恥ずかしいに決まってるでしょ、馬鹿」

「恥ずかしいこと沢山してきたのに?」

自分の足越しに見える一松はさっきまでの緊張はどこへやら、にやにやと楽しそうに笑っている。
恥部へは直接触れず、太腿に口付けたり舐めたりでもどかしくなる。こんな恥ずかしい体勢のまま、いつまで経っても触れてはくれなくて堪らず一松の名前を呼んだ。

「んー?」

「分かってるくせに、意地悪」

「なに、俺馬鹿だからさ、言ってくれないと分かんないんだよねえ」

「……きもちよくして、一松…」

「………」

頑張って伝えたのに一松は何も言わなくて、薄暗い部屋の中で見える一松の瞳はギラギラと欲望に飢えた目をしていた。その瞳に見つめられてドキッとする。何だかあたし、今から食べられちゃうんじゃないのかなって。

「はー….自分で言わせといて何だけど、今のヤバイ。満足いくまで気持ちよくしてやるから」

一松があたしの恥部へと顔を近付けて愛撫をはじめた。一松の興奮した荒い息遣いにすら感じてしまう。ぺろぺろと舐めたり、ナカへと舌をいれたり、赤くなったその小さな突起を舌でぐりぐりと押し付けるようにして弄ったり。一松の全ての愛撫に全力で感じて声が止まらない。

「ん、はっ…!や、ああんっ!」

くちゅくちゅとした音が静かな部屋に響いて耳からも犯されているみたい。一松が離れると、片足を降ろされ今度は指をナカへと挿入した。一松の唾液と自分の愛液で濡れたそこはすんなりと受け入れた。それどころか一度に二本も指をいれられ、ナカでバラバラと動かされる。


「やっ!あっあっ、なか、激し…っ!」

「…えろ、」

ぐちゃぐちゃにされたそこから指を引き抜くと、熱のこもった一松自身をあてがわれる。

「…出来るだけ優しくする」

先端部分がぬぽっと蜜壷に入って、ゆっくりと挿入されていく。指とは違うその質量に少し苦しくなって一松の背中に手を回す。一松はそれに答えるみたいにぎゅっと抱きしめて、その肉棒を奥まで挿入した。ふーっ、と深く息を吐く一松は何だか余裕がなさそうに見える。


「んっ、一松…大丈夫?」

「はっ…、うるさい、死ぬほど気持ちよくしてやるって言っただろ」

死ぬほどなんて言ってない、そう言い返そうとしたけどそんな間もなく一松は腰を動かして肉棒を出し入れを開始する。動く度にいやらしい音が結合部から聞こえる。

「あっ、優しくする…って、言ったくせ、にっ!」

「お前こそ、好きにしていいって言ったくせに。きもちよくしてってだらしのない顔で言ったのはどこのどいつだよ…っ!」

「あっ!あっ!んひゃあ…!す、ごいいっ!」


反論したいのに快楽によって言いたい言葉がなし崩しになっていく。頭もぼーっとして何も考えられなくなる。口ではお互い憎まれ口を叩くけど、身体はどんどん絡まっていく。汗ばんだ肌もお互いなら気持ち悪くない。寧ろ裸と裸って気持ちいい。好きな人とするセックスってこんな気持ちいいんだ。
一松は叩きつけるみたいに腰を打ち付けてきて、その度にあたしのだらしなく開いた口からは喘ぎ声が止まらない。


「あ…んっ!いちま、つ!いち…まちゅっ!んんっ、むぅ、んうっ!」

激しいセックスの間、キスをされ舌で口内を犯される。口の中も全部一松に染められていく。余裕のない一松がそろそろイきそうだな、と頭の片隅で感じた。


「はっ、はっ!るりっ!」

「んあっ!あんっ!いち…まっ!好きっ!好き…っ、やっ、気持ちいい…っ!」

「あっ、はっ…!そろそろ限界…っうっ、ああっ!」

「…あっ!あーっ!」


ラストスパートに一松の腰はより早くなって、最後に痙攣したみたいにナカで一松がぶるりと震えてどくんと脈をうった。あたたかいものが注がれて、繋がったまま抱きしめあった。


「なんか、さ…前は嫌がるるりを無理矢理…してたから、それまでは自分さえ気持ちよけりゃいいって思ってたけど…るりと一緒に気持ちよくなれて、るりを気持ちよく出来て本当に嬉しい」

「一松…うん、あたしも一緒になれて嬉しいよ」


優しく頭を撫でてくれる一松が本当に心から愛しく思う。


「一松」

「ん?」

「好きだよ、大好き」

ちゅ、と唇に口付けると一松は恥ずかしそうに一度目を逸らすと再びあたしを見てはにかむように笑った。

「…ん、俺も」
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