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「はあ…っ、はっ、」
行かなきゃ―――
息を切らして走った。普段運動しないこの不健康な身体が、悲鳴を上げてる。あれ、そういえばこんなの前にもあったっけ。そうだ、るりがトド松とデートしたって時も、キスをしたって聞いた時もこんな風にサンダルで走ったっけ。いつだって、あいつに会いに行く為に走ってる。走りながら、トド松に言われた言葉を思い出す。
「僕さ、聞いたんだ…百瀬さんに、一松兄さんのどこが好きなのって。そしたらさ…『初めは嫌いだった。絶対好きにならないって、そう思ってた。でも…不器用なくせに一生懸命なところとか、意外と照れ屋なところとか…。理由なんて特になくて、きっとあいつの隣が落ち着くんだと思う。今でも、自分でも信じられないくらい』って」
「………」
「特に理由なんて、ないんだって。百瀬さんは一松兄さんじゃなきゃ駄目なんだよ。理由なんかないんだよ…っ!」
堪えきれずに溢れた涙を床にぽたぽたと染みを作って、叫ぶように放ったその言葉がずしんと心にのしかかった。未だ殴られた衝撃で座り込んだままだった俺は、ゆっくりと立ち上がり「トド松…悪い…ありがとう」と小さく呟き家を出た。
あいつを…るりを追いかけるために。