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「何やってんの」
後ろを振り向くと、冷めた目をしたトド松が立っていた。何時もよりもずっと声のトーンを低くして、俺を真っ直ぐに見据えている。
「トド松…」
「ねえ、何やってんの一松兄さん。何であんなこと言うの。何で追いかけないの。」
「そんなの、俺にそんな資格ないからに決まってんじゃん。俺はお前みたいに自信も無ければ余裕だってねえよ。もうさ、怖いんだよ。これ以上一緒にいても傷付けるし。俺みたいな奴といてもあいつ幸せになれないだろうし。」
「………」
黙ったまま俺の話を聞いていたトド松は、ゆっくりと俺の前にやって来ると思いっきり振りかぶって俺を殴った。ゴッと鈍い音がして、骨が痛い。もしかしたら歯が折れたかもしれない。殴られた衝撃でふらつき、玄関の戸にガシャン!と大きな音を立てて倒れた。
「いっ…」
「ふざっけんな!何が怖いだよ。いつまで逃げてるつもりだよへたれ。傷付けたくない?傷付きたくないの間違いでしょ。百瀬さんはもう、勇気を出して一松兄さんの方へ歩み寄ってるだろ!」
「トドま…」
「…俺じゃ…俺じゃ駄目なんだよ、一松兄さん…!」
殴られた頬はずきんずきんと痛むけど、それよりも目いっぱいに涙を溜めているトド松の方がずっと「痛い」と言っているようだった。
「悔しいけど…一松兄さんじゃなきゃ駄目なんだ…」
震える声で、必死に絞り出すように言った。