50
気が付けば朝になっていて、俺はいつの間にかるりに抱き締められたまま寝てしまっていたようだ。起きた時に皆にひやかされて(特におそ松兄さん)、るりと俺は赤面したまま朝を迎えたのだった。
「トド松といい感じなのかと思ってたけど、一松と出来てたのか〜」
「えっ、えっと」
「…ちがうよ、そんなんじゃない」
おそ松兄さんが茶化してくるのが照れ臭くて咄嗟に否定した。るりが少し俺を見て俯く。それに気付かないふりをしていると、トド松からの視線に気付き目が合う。何かを言いたそうにしていたけど、その場は何も言われなかった。
「んじゃあ、一松が送ってこいよ」
違うって言ってるのに、帰るるりを送ってこいと言われる。溜息をついて玄関でサンダルを履いているとるりが口を開いた。
「…覚えてないんだけど…あたし、昨日何か言った?」
「……何も言ってない」
昨日の出来事を思い出したけど、何も無かったと嘘をついた。るりがフリルのついた靴を履きながら続いて言う。
「あの、さ…一松。嘘じゃないから。あたし、一松が好き。」
「…もう、会わないって言っただろ」
「………そっ、か。うん、うん…わかった」
るりは目に涙を溜めて必死に笑顔を作った。下手糞な作り笑い。るりは松野家の玄関の戸を開け出ていった。