04
どうしよう。バイト中は頑張って保っていたけど、正直しんどい。もう松野くんといることが辛い。注文を受けたケーキと紅茶のセットを用意しながら溜息をつく。あたしどんな顔してるんだろう。
「…さん、百瀬さん!」
「っ!」
大きな声で名前を呼ばれハッと我に返る。隣を見ると松野くんが心配そうな顔で覗き込んでいた。
「体調でも悪いの?ぼーっとしてるよ、熱でもあるんじゃない?」
「いやっ…!」
松野くんはあたしの額に掌を添えた。その瞬間、思わず昨日の体験がフラッシュバックして無意識に松野くんの手を弾いた。ぱしっと手と手がぶつかった渇いた音がして、少しの沈黙が気まずく流れる。松野くんはただ驚いていた。
「あっ…あのごめんなさい。何ともないから」
「…あ、いや、僕こそごめんね。急に」
ウィーン、とドアの開く音が聞こえて、この場から逃げたくて直ぐにそちらへ向かった。
「いらっしゃいま…」と最後まで言うことが出来なかった。お店に入ってきた客は、見たことのある顔だったから。松野くんと同じ顔が、五人。
後ろから松野くんが「兄さんたち…なんでここに!?」という声が聞こえた。心臓がどくんどくんと早くなる。なんだろう、嫌な予感がする。
「いや、お前がバイト始めたとこ見に来たんだよ。それに、ずっと可愛いって言っていた子の」
「あーっ!わーっ!もう、おそ松兄さん!その話はなしでしょ!」
確かに目の前には松野くん含め同じ顔が六つ。区別なんて出来なくて、この中に入ってしまえば今バイト着を来ているから分かるけどそうでなければどれが松野トド松くんなのかさっぱり分からない。けど、その中で…「昨日の松野くん」がどの人だったのか。分かってしまった気がする。一人だけ髪の毛がボサボサで目つきが悪くて。いや、あたしの考えすぎかもしれないけど。
六人の中で一番端にいたその人は、あたしと目が合うと…にやりと目を細めて微かに笑った。ぞくりと全身の鳥肌が総立ちした。
やっぱり…やっぱり、「昨日の松野くん」は松野トド松くんではなかった。