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追いかけて彼の腕を掴んだ。「待って」と彼の名前を呼んだ。けど、言い終わらないうちに帰ってきた言葉はあたしの心臓をぐさりと突き刺すものだった。あんなに冷たい視線と声は、以前の一松の頃と同じ。この前まで優しく微笑んでくれたのに、照れながらも優しい声で名前を呼んでくれたのに。折角気持ちが通じ合ったのに。一松は掴まれた腕を振り払って夜に溶けていくように歩き出した。

どれくらいそうしていたんだろう、あたしはどうする事も出来ずその場に立ち止まったまま。涙が溢れて止まらない。冷たい夜風が頬を掠めていく感覚だけが、残っていた。


アパートへ帰って、浴室へ直行した。シャワーを浴びながら鏡を見ると、酷い顔をした自分と目が合う。泣いて赤く充血した自分の目を見たら、今日の出来事を思い出してまたじわりと涙が滲んだ。
何で、何で一松なんか好きになっちゃったんだろう。松野くんを好きになれたらこんなに辛い想いをしなかったのかな。それでも、どうしようもなく一松が好きで…思い出すのは一松の事ばかり。今じゃもう、この身体も心も頭の中も全部一松でいっぱいになってる。
また名前を呼んで欲しい、好きだって言って欲しい。また抱きしめてほしい。キスをして欲しい。さっき会ったばかりなのに、一松に…会いたい。

…逃げたくない。このまま終わりたくない。誤解されたままは嫌だ。だから、一松に会って伝えよう。あたしはまだ言ってない。一松に「好き」だって伝えてない。
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