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「待って…!待ってよ!」

後ろからるりが叫ぶ。逃げるように早足で家へ向かうけど、その後を一生懸命走って追いかけてくる。もう、二人は付き合うんだろう。いや、もう、付き合ってんのかもしれない。デートして抱き合ってたんだから。もう俺なんか入り込む隙なんかない。いや、初めからそんなもんなかったんだ。確かに俺達兄弟は屑ばっかだけど、俺なんかに比べたらトド松の方がずっと社会的にマシだろう。社交的だしバイトだってしてるし、見た目だって気を遣ってる。何で俺、一人で舞い上がってたんだろ。デートして、手繋いで、るりの笑顔見て柄にもなく照れたり嬉しくなったりして。


「一松…っ!」


俺に追いついたるりが俺の腕を掴んで引いた。立ち止まった俺達の間に気まずい沈黙が流れる。るりは少し息切れをしたまま、静かに俺の名前を呼んだ。


「いちま…」

「もう、やめよう」

「え…やめるって…」


苛ついたまま振り返らず、強めの口調で遮るように言った。振り返らなくても今るりがどんな顔をしているのか分かる。


「好きとか、そういうの。お前も迷惑だったんだろ?俺も疲れたんだよ。良かったな、トド松と付き合うんだろ。」

「ちが…」

「もうさ、お前に近付かないから。安心しろよ。もう無理して俺に優しくしなくていい。…じゃあ」

「…っ!」


自分でも、よくこんな酷い言葉が零れ落ちるように出てくるなと思う。本当は、振り返って俺の腕を掴むるりを抱きしめたいのに。俺には出来ない。する資格なんてない。

掴まれた腕を振り払うように引っ張ると、するりとるりの手が離れた。すとんと、落ちるように。るりは何も言わなくなって、俺も黙ったまま再び歩き出した。
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