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松野くんとのデートも終盤になり、ごめんなさいと伝え、自分の気持ちに気が付いた。松野くんは辛い筈なのに、ぎこちない笑顔で「兄をよろしくね」と言ってくれた。
家まで送っていこうか?と言ってくれたけど、ここから近いから大丈夫だと断って立ち上がる。松野くんは一呼吸おくと、「百瀬さん」と呼び止めた。


「最後にお願いがあるんだ」

「なに?」

「一度だけ、抱き締めさせてくれないかな」


あたしは答えに迷った。けど、松野くんの真剣な目を見たら断れなくて「…うん」と頷いた。ほっとした様子の松野くんは向かい合うように立つとそっとあたしを抱きしめる。同じ顔だけど、一松とは全然違う匂い。抱きしめる力も違う。一松は荒々しかったりぎゅっと力強いけど、松野くんは優しくてふわりと包み込むように抱きしめる。


「僕さ、本当に百瀬さんが好きだった…バイト先でしか会えなかったけど、楽しかった。ありがとう…」


少し泣きそうな声の松野くんが抱きしめたまま呟く。


「ううん、あたしだって楽しかったよ。ありがとう…」


ゆっくりと松野くんが離れると、いつもの優しい笑顔の松野くんだった。あたしも微笑み返すように笑う。


「我が儘聞いてくれてありがとう、またバイト先でよろしくね!」


うん、と返事をしようとした時、砂の擦れる音が聞こえてその方向を見たらそこには何故か一松が立っていた。一松は驚いた表情をした後、何か察したように悔しそうな、苦しそうな顔をした。
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