36
待ち合わせ場所に着くと、既に松野くんがいて「お待たせ」と声をかけた。松野くんはいつものバイト服とは違って、流行りを取り入れた如何にもお洒落なファッションという感じ。あたしの声に気付くと振り返って「わ、百瀬さんすごくかわいい…」と照れながら褒めてくれた。こっちも照れくさくなって小さな声で「ありがとう…」と言った。
そういえば、一松とデートした時も一松は照れていたっけ。声をかけたらロボットみたいにガチガチになって、耳朶まで真っ赤にして。あの時の一松、可愛かったな…。思い出してくすっと笑ってしまったあたしを見て、松野くんは不思議そうな顔をする。
「百瀬さん?どうしたの?」
「あっ、ううん何でもない!」
「そう?じゃ、行こうか」
すっと自然に差し出された手を、躊躇しながら掴んだ。あの時も、そうだったっけ。
「何処へ行くの?」
「んー、内緒」
何処へ向かうのか分からないまま、手を引かれ電車に乗った。