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「その、今日はありがとう…」


るりのアパート前に立ち、「ん」と短く返事をした後にっくしゅっ!とくしゃみが出た。夜になると肌寒くなってきたせいか、すんと鼻を啜る。るりは小さく笑うと、首にしていた淡いピンク色のマフラーを俺に巻いた。

「鼻、赤いよ。寒いんでしょ、貸してあげるから」

マフラーからはるりの柔らかい匂いがして、身体だけじゃなく心も温かくなった気がした。

「いやでも」

「いいから!風邪ひかないでよね」


嬉しいのに気恥ずかしくて、「どーも」と無愛想に返事をして家路へとつく。自分なりに頑張れた気がする。るりが心配してくれた、るりが笑ってくれた、ただそれだけの事が嬉しい。以前の俺にはなかった感情が、るりといると溢れ出てくる。思わずにやけそうになって、マフラーで顔を隠して歩いた。

家へ着くと、トド松が真っ先に玄関へ出てきて「どうだった!?」と期待と不安を含めた表情で身を乗り出し聞いてきた。

「ん、まあまあ…」

「まあまあって…その表情だとうまくいっ…」


にやにやしていたトド松から急に笑顔が消え、真面目な顔になった。そして、ワントーン低めの声で


「そのマフラー…百瀬さんのだよね」

と言った。


「…一松兄さんの好きな女の子って、今日デートしてきた子って…百瀬さん、なの?」


トド松の目の色が、変わった。
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