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るりに黙って手を引かれ歩いて、こんな状況なのに嬉しいと感じている自分がいた。何度身体を重ねても、手を繋いだことは初めてだった。るりのアパートに来るのはそんなに前のことでもないのに久しぶりに感じる。座って、と言われ腰を下ろすと濡れたタオルと救急箱で手当をしてくれた。何だよ、何でそんなに心配そうな顔してんだよ。
「あの…ありがとう」
小さな声だったけど、るりは確かにありがとうと呟いた。こんな時、普通だったら何て言うんだろ。分かんねえ。分かんねえけど、男に襲われかけて悲惨な暴行現場を見てしまった訳だからショックな筈だよな。それは分かってる筈なのに、口から出たものは辛辣な言葉だった。
るりは泣いていた。いや、俺が泣かせた、また泣かせたんだ。くそ、くそっ…何であんなことしか言えないんだよ、俺。ああ調子狂う。寝ても覚めても考えるのはるりのことばかりだ。
家に帰ると居間にいたのはトド松だけで、「一松兄さんおかえり〜」とTVを見ていた顔をこちらに向けた。ぎょっとした顔で眉をひそめて、気まずそうに顔色を伺ってくる。
「どうしたの、その顔…誰かと喧嘩でもしたの?」
「…………なあ、トド松…女のこと、なんだけどさ。そいつが笑ったり泣いたりする度、むしゃくしゃしたり嬉しくなったり、よく分かんねえ感情になるんだよ」
質問にも答えず唐突に話し出す俺に、トド松は心配そうな顔から真面目な表情になった。そして、少し柔らかく微笑んだ。
「それは恋だよ、一松兄さん」