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結局あの行為のあと、一松とは会っていない。と言っても今までが週に三回くらい会っていたから、五日会わないだけで随分顔を合わせていない気分になるだけなのかもしれない。何よ、あいつの事なんかどうだっていいのに。あんな悲しそうな切ない顔をするから…。


今日もバイトを終え、アパートへと帰る。ふと、後ろから誰かがついてきていることに気がついた。あたしの歩行のスピードに合わせてついてくる。夜道、大きめの道を通ってもこういう時に限って人気が少ない。怖くなって段々と早歩きになるけど、それでもついてくる足音。
ふと、肩にぽんと手を置かれびくっと身体が跳ねた。恐る恐る振り向くと…。


「やあ」


いつも来る常連のあのお客さんだった。えっ、何で。ついてきてたの、この人なの?彼はいつもと変わらない爽やかな笑顔で、それを見たら「ああ思いすごしか」って考えが浮かんだけど、やっぱりそうではなかった。


「どうして怯えてるの?ああ、君に付きまとっているあの男に怯えているのかな?そういえば最近見ないね、あいつ。漸くるりちゃんのストーカーを辞めたのかな?あのいつも紫の服を着たやつ。あ、それより今日はコンビニ寄らないのかい?いつも買っていくだろ、アイスかプリン。」


待って、何かおかしい。嫌な予感がして変な汗が出てきた。心臓もどくんどくんと早くなっていく。何でそんな当たり前みたいに、一松のことを言うの。一松のことなんか、話したことないのに。どうしてあたしがいつも帰りにコンビニに寄ること知ってるの。一松がストーカー?そんなまさか。確かにあいつに脅されて無理矢理犯されているけど。ストーカー?それって、それって。あなたのことじゃ。


変わらず笑顔のままで、彼の手があたしの手首を掴む。震えて声も出ない、身体も動かない。怖い。逃げなきゃいけないのに。

誰か、助けて。

その咄嗟に頭に浮かんだ「誰か」は、どうしてか。認めたくないけど。


松野一松だった。
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