ロマンティックなキスをして


(これの続編)

「おじゃましまーす」

ガラッと玄関の引き戸を開けて声をかけるけど、みんな出掛けているみたいで誰からの返事もない。あれ、おかしいな…一松とは猫カフェに行く約束してるからいる筈なんだけど…。何回か一松の名前を呼んでも反応はなく、シーンとした静けさだけが残る。仕方なく靴を脱いで松野家へ上がって一松を探す。二階の部屋へ行くと、一松がいた…んだけど。


「あ、いるんなら返事し…一松?」


ソファに横になった一松はすやすやと寝息を立てて気持ちよさそうにお昼寝中。もう、約束してるのに呑気に寝てるなんてと文句も言いたかったけれどその寝顔を見てるとそんな怒りも吹っ飛んでしまった。


(意外とかわいい寝顔してるんだな…)


ソファの横に膝をついて普段見れない一松の寝顔をまじまじと観察する。「おーい」と声をかけてみるけど起きる様子はない。こんな機会は滅多にないなと一松の頬をぷにぷにと押してみる。少しの悪戯心が芽生えて、周りに誰もいない事を確認する。ドキドキと心臓が早くなっていく。ゆっくりと顔を近付けて、一松の頬にちゅ、と軽く触れるようなキスをした。


「………」


一松は変わらず規則正しい寝息を静かにたてていて眠ったまま。自然と一松の薄く開いた唇に目がいってしまう。わたし、以前この唇にキスをされたんだよね。お互いがお互いを好きだということは分かったけど、あれからキスは一度もしていない。


(一松とキス、またしたいな…)


ゆっくりと再び顔を近付ける。こんなに近いと心臓の音が聞こえちゃいそう、とかいきなり起きたらどうしよう、とかいろいろ頭をぐるぐると回る。どくん、どくんと先程よりももっと心臓の鼓動は早くなっていく。この間はわたしが寝てる時に一松がしてきたんだから、おあいこだよね。音もなく唇と唇が触れて、優しく自分の唇を押し付ける。

数秒間一松にキスをして、唇を離そうとした瞬間頭の後ろに手がまわってぐっと引き寄せられた。離れかけた唇は再び押しつけられ、より深い口付けをされる。


「ふっ…!ん、んっ」


状況も分からないまま、ソファに手をついて抵抗をすると目の前の寝ていた筈の一松がぱっちりと瞼を開けて起きていた。いつ起きたんだろう。一松は真っ直ぐとわたしの瞳を見つめたまま、角度を変えて味わうように長いキスをした。

漸く頭の後ろにまわされていた手が力を緩めて、唇が離れるとお互いの口周りはぬらぬらといやらしく光っている。


「いっ、いつ起きて…!」


「んー?部屋に入ってきたあたりかな」


「それ最初からじゃんっ!もう!」


はじめからずっと起きていたなんて、自分の行動を振り返ると恥ずかしくなって一松を睨んだ。一松はにやりと楽しそうにほくそ笑む。


「いやー、るりちゃんが寝込みを襲うえっちな女だったとはねえ…」


「なっ!ち…違っ!ひゃっ!」


否定をして密着していた身体を離れると、逃がさないと言わんばかりに手首を引かれあたしは一松の上にもたれるような形になった。先程よりもずっと近くなった距離に、顔が赤くなるのが分かる。一松はわたしの耳にふっと息を吹きかけて、それに簡単に反応してしまう。


「ひっ…!」


「なあ、」


耳元で、吐息を混ぜていつもより低い声で囁く。ぞくりと鳥肌が立って体がぶるりと震える。あ、こいつ絶対わざとやってる。そう思うのに反応してしまう自分が悔しい。



「ね、猫カフェ…!約束してたでしょ!」


「あー?後で。それよりも」


わたしの耳朶を甘噛みしながら、ニヒルに笑う一松。


「俺をもっと、味わえよ」



食べられる方はきっとわたしの方なのに。
そう思いながらも逃げることなんて出来なくて、再び深い口付けにされるがままになった。


−−−−−
ひなさまお待たせ致しました!
「ドラマティックなキスをして」の二人で今度は眠っている一松にキスを〜というお題で書かせて頂きました。
結構甘くしたつもりではいるんですが今回は少し大人なキスを盛り込んでみました(*^^*)
気に入って頂けると嬉しいです!

百瀬 るり

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