魔法の呪文


「お前なんか嫌いだよ」

冷たい声が降り掛かる。初めて、目の前で直接「嫌い」だと言われた。何故だか涙は出なくて、どうしたらいいか分からなくて代わりに下手くそな笑顔を作った。そうしたらもっと嫌な顔をされて、「そういうところ、ほんとに嫌い」とそっぽを向かれてしまった。

私のどこが嫌いなのかな、どこを直せばいい?ただ私は友達になりたいだけだった。だから私は長い髪をばっさりと切って、好みだった可愛い服じゃなくメンズの服を着て、分かりにくくなるように眼鏡をかけて会いに行った。私じゃなくていい。私としてじゃなくていい。一松くんとお友達になりたい。…そう思って。


公園のベンチで野良猫に餌をやっているジャージ姿の男の姿。髪はボサボサで、少しだらしなくはえた無精髭、ジャージにサンダルのいつも通りの松野一松の姿があった。緊張しながら近付いて行く。少し感覚を開けて隣にしゃがんだ。

「触ってもいいか?」

「………まぁ、野良だし」

怪訝そうに睨みつけられたけど、拒否をされなかったことに安堵した。

「…ねえ、お前みたいなのって友達たくさんいるんでしょ」

「は、」

猫を撫でながら無愛想に呟く一松を横目で見た。

「友達ってさ、そんなにいいものなの。いらないよね、気を遣ってへらへら笑いあってさ」

「…………俺も、友達はいないけどさ、そんな悪いもんでもないんじゃないかな。俺は、寂しいし、友達が欲しいって思うよ。お前も、そう思ったこと一度くらいはあるんじゃないの?」

「…………」


遠慮気味に言ってみたけど一松は黙って目の前の猫を見つめているだけ。
今日は「友達になりたいんだ」って伝えるんだ。緊張で心臓がまた少しだけ早くなる。

「…俺も、」

ふと聞き逃してしまう程小さな声で一松が呟いた。

「俺も…本当は友達欲しい…って思うけど。こんな性格じゃ無理だろうし。」

そんなことないって言おうとした。またそういうことを言えば「俺の何を知ってんだよ」とか「だからお前のそういうところ嫌いなんだよ」って言われるかも、と思ったけど。それでも言おうとしたんだ、そうしたらその後の言葉には続きがあった。

「でも、俺のこと好きだって言ってくれたヤツが一人だけいて…女なんだけどさ。本当はありがとうとか、言えれば良かったんだけど…言えなかった。それどころか傷付けることばっかで…嬉しかったのにさ、バカだよね」

そんなことばっかしてるから友達できないんだよな、と自称気味に笑った。一松がちらりとこっちを見てぎょっと驚いた。

「おまえ…何泣いて…」

ぽろぽろと二つの目から透明の液体が溢れて止まらなかった。唇を噛み締めるとしょっぱい味がする。眼鏡を取って俯きながら涙を袖で乱暴に拭う。

「……るり?」

眼鏡をとった私を見て一松は気付いてしまったようだ。そして初めて私の名前を呼んでくれた瞬間だった。ずっと言えなかった言葉、今日言おうと決めていた魔法の言葉。もう一度涙を拭うと真っ直ぐに一松の目を見てはっきりと言った。


「一松…友達に、なってほしいんだ」


「…バカじゃねえの」


一松はそっぽを向いたけど耳まで真っ赤にした一松のその言葉は優しいものだった。そして振り返ると「……お前の髪、好きだったよ」と呟くから


「じゃあまた伸ばすよ」

と笑って答えた。


−−−−

双葉 さま

遅くなってすみません…っ!!!
本当にお待たせしました><
割とさっぱりした内容でありますが、個人的には結構お気に入りかな〜なんて思っております(*^^*)
「一松と友達になりたくて男装する話」というリクエストでしたが、如何でしたでしょうか?(>_<;)
またMärchenに遊びに来てくださいね〜(*^^*)
この度はリクエストありがとうございました!

百瀬 るり
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