見つめて、恋して、愛して


「ねえ」

「………」

「ねえってば」

「………」


部屋に響くのは返事が帰ってこなくて大きな独り言になってしまっている私の声と、にゃーんという甘ったるい猫の声。折角彼女が遊びに来ているというのに、彼氏である松野一松は膝の上の猫にでれでれでこちらに見向きもしない。えっこれもしかして私が隣にいるって気付いてない?そんな馬鹿な、こうやって何度も声をかけているのに。視覚的にも聴覚的にもシャットダウンされてるの?私だって一松の膝にごろごろにゃんにゃんしたいんだけど!そこ本当は私の席なんだけど!その普段はしない優しい目と微笑みで見つめてほしいし、その猫を撫でるみたいに優しく頭を撫でて欲しい。私って我侭かな、でも女の子ってきっとそんなものでしょ?好きな人に触れたいし触れられたい。

「あの、一松くん」

余りにも無視をするから何だか泣きそうになってきた。もう一度名前を呼んだけど反応はない。あ、そうですか。あ〜そうですか。もういい、帰る。私ここにいる意味無いし…!どうせいることも気付かれてないんだったら帰ったって気付かれないんだろうけど!

バッグを掴んで立ち上がり、襖を開けようとすると「どこ行くの」と声をかけられた。

「………私が隣にいたこと、気付いてたんだ」

厭味ったらしく言ってみる。自分でも可愛くないなと思う。本当は引き止められて嬉しいのに。


「帰る」

「何で」

「何でって…私がいなくたって一松にはその子がいるし、一松もそれで良さそうだし…」

「なに、嫉妬してんの?こいつに」

もごもごと口篭ると少し馬鹿にしたように鼻で笑われた。お前こいつに嫉妬してんの?猫だよ、猫って。


「…そうだよっ、悪い?第一、一松が猫ばっか構ってるのが悪いんじゃんっ!私、彼女なのにっ!」

開き直ったら感情がぶわっと昂って目に涙が溜まってきた。ああもう、自分だってわかってるよ。猫に嫉妬してるのなんて馬鹿みたいだなって。一松はふっと笑うと膝の上の猫を退かして自分の膝をぽんぽん、と叩いた。

「おいで」

そんな、猫を呼ぶみたいに。素直に行ってやるのは何だか悔しい。けど嬉しいし、やっと一松に甘えられるという誘惑には適わなかった。むすっとした表情のまま、襖にかけていた手を下ろして一松の膝の上へと向き合うように座った。ぎゅっと抱きしめられて「ごめん、つい意地悪したくなった」と呟いた。

「………ばか、」

「ごめん、でも嫉妬してるるり、可愛かった」

耳元で、甘い声で囁かれて身体の体温が一気に上がる。

「………っばか!きらい!」

「きらい?僕のこと。いいよ、それでも」

「……うそ、好き」

一松はずるい。そして私は単純だ。一松に素っ気なくされたら不貞腐れるし、優しくされたらすぐに嬉しくなる。一松の言動一つ一つで私が出来ている。嫌いでもいいよと言ったくせに、「好き」というと目を細めて満足気に笑った。その顔好きだなぁ。
お互いの額をこつん、と合わせて見つめ合う。どちらからともなくキスをして、どんどんと深く交わっていく。

「ふっ、ん」

唇から零れる吐息に自分でもぞくりと興奮する。一松から香ってくる、一松の匂い。落ち着く。一松も興奮しているのか私のお尻の下からは硬いものが主張するように大きくなってきた。一松は何も言わずに私の洋服を捲りあげて胸の谷間に顔を埋めた。谷間の溝をなぞる様に舐められて擽ったくなる。私も堪らなくなって一松の下腹部に手を伸ばし、硬くなったものをジャージ越しに擦った。

「ほしい?これ」

谷間に顔を埋めたまま、上目遣いで聞いてくる。一松のものに添えている私の手の上に、自分の手を重ねて。

「…ほしい」

素直に伝えると一松はふっと笑って少し意地悪そうな顔で「いい子だねぇ」と頭を撫でられた。それだけで胸がきゅうんとなってもう今すぐにでも一松が欲しくなる。ああもう好き、大好き。

首の後ろに手をまわしてぎゅうっと一松を抱き締めると、そのまま足を抱えられて立ち上がった。後ろにあるベッドに運ばれて、二人分の重みが重なってぎし、と軋んだ。太腿を一松の手で摩られてもどかしくなる。「ここ、触って」と一松の手を自分の恥部へと誘導をすると、一松は少し驚いて「へぇ、大胆だね、今日は」と口角を上げた。

「だって、一松と早く交わりたい、から。」

「そんなこと言ってられる余裕、なくなるよ」

希望通り一松の指が穴へと入り込んでいき、少し動かすとくちゅりと小さく音がした。

「ほんとだ、もうやる気満々じゃん。このイヤラシイ身体は」

一本だった指を二本に増やされ、ナカをゆっくりと解される。一松の指がナカの肉壁に当たる度に、あっあっと声が洩れる。段々と解れてきた所で、一松が二本の指をバラバラに動かし親指で中心にある芽をぐりぐりと押しつぶした。私の身体は電気が走ったみたいにびくびくと震えて、気持ち良すぎて喘ぎ声はボリュームも抑えられない程に溢れる。

「あーっ、あっ!やっ、んああ、いちまっ、」

「一回イッとけば、ほら」

「うえっ、イくっ、気持ち、よすぎて…っ!あああっ、イッ…っ!」

びくんびくんと腰が痙攣して、霰もなく声を大にして果ててしまった。私の恥部はもうぐっしょりと濡れていて、一松の手も汚れてしまっていた。一松はそれを気にもせずに私を抱き起こすと、再び胡座をかいた一松の上に向き合う形で座らされた。そして「いれるよ」と低い声で呟くとゆっくりと私の腰を支えながら落とした。私は足を一松の腰へとぎゅっとまわして密着した。もう私と一松の間に隙間なんてないくらいに。抱き着いて一松の首筋に顔を埋めて深呼吸をする。あー、一松の匂いに包まれて一松とセックスするの本当に幸せ。

「おい、何匂い嗅いでんの」

「んー、一松の匂い好き、落ち着く」

「あんま可愛いこと言うと止まんなくなるよ」

どうせ止める気なんてないくせに。
私が腰を少し浮かせると、一松は腰を動かして打ち付ける。この体位の角度なのか、いつもと当たる場所が違って気持ちいい。

「はあっ、あん…!いちまつ、好き…!ひゃ、んっ!はっ、あっ!好きっ!」

「…っ、だからっ、あんま可愛いこと言うなって…!」

一松はリズムを変えずに腰を動かしたまま、私の耳に舌を這わせた。

「ひゃう、んっ!やっ、耳やらぁっ!」

耳朶を軽く噛んだり、耳の穴の奥までねっとりと舐められて、性感帯をここぞとばかりに攻められ開きっぱなしの唇からは涎が垂れる。

「はっ、涎垂らしてそんな気持ちいいかよ」

低い声と吐息が耳にダイレクトに響いてぞくぞくと気持ちよさが全身を駆け上ってくるみたい。

「んひっ、きもちっ、いいいっ!」

「ん、はぁっ、お前のだらしない顔、たまんないね」

一松はそれはもう酷くイヤラシイ顔をしていて、どっちがだらしないのよって言いたかったけど、私達どっちもだらしなくてイヤラシイなってそんなこと考えてた。
仕返ししてやる、と今度は私が一松の耳を舐めた。はあ、はあっ、と荒い息と共に喘ぎ声をわざと大きめに出して。
一松は「う、おっ」と声を洩らして何だか少し優位に立てた気分になった。

「うっ、あっ、やめ…ろって!余裕なくなるっ、」

「んちゅっ、はっ、んあっ、いち…まちゅ…っ」

お互いの興奮度が最高潮になって一松の律動は早まり、より奥深くへと挿入される。限界が近くなって声がどんどんと大きくなってきた。

「あーっ、もう、だめっ、イッちゃううううっ!」

「はっ、あっ、あー、出、るっ!」

「あっ!一松っ、イくっ!イッ…ああああーっ!」


私がぎゅうっと締め付けると一松が私のナカで果てて、生暖かい液体を注がれた。はー、はー、と二人の荒い息だけが耳に残った。抱き締めあった胸に響くのは自分の心臓だけじゃなく、一松の心臓の音も右側に響いてきてそれがとても心地よかった。

「一松、」

「んー?」

「…好き」

「知ってる」

「一松は?」

「……好き、だよ」

「猫より?」

「…あーはいはい、好きですよ」

少し面倒くさそうだけど、それでも好きだと言ってくれたことに満足して一松の唇にキスをした。一松の顔を見たら、安心した。

何だ、満更でもないんじゃん。
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