「キライ」なんて言わせない


ガラ、と襖を開けて、震える声で名前を呼んだ。

「いっ、い…一松…!」

座っている一松の前にしゃがみ込んでその両手を掴んだ。

「すっ、すっ好きです付き合って下さい…!」

「へっ…?い、いや…あの、誰…」

一松は突然の出来事と私の普段とは違う姿に戸惑っているようだった。

「……やっぱり、だめ…かな…?」


普段相手にされていないけど、こんな恥ずかしい格好までして駄目だったら…私はもう今度こそ立ち直れないかもしれない…!少し涙目になりながら一松を見上げると、顔を真っ赤にした一松が数秒の沈黙の後、「は、はい…」と頷いた。

「ほ…本当か…っ!?嬉しい…ありがとう一松…!」

嬉しさのあまりに抱きしめると、一松は煙が出るんじゃないかと思うくらいに顔を赤くした。固まったまま動かないけれど、そんなことよりもついに想いが通じたことに感動をしてそれどころではなかった。

「ありがとう!本当にありがとう!私…一松がずっと好きだった…」

思わず涙目になって、一松を抱きしめる力が強くなる。

明日も来ていいかな?と聞くと一松は口元を緩くして頷いた。ああ、本当に夢みたいだ。一松が私と付き合ってくれるなんて。

−−−

翌日、今度はいつも通りの服装で約束通り松野家の戸を開け部屋に行くと…そこにはいつものパーカーにジャージではなく、ビシッとキメたスーツ姿の一松がいた。
そんなに私に会うのを楽しみにしてくれていたのか…!と思ったが、一松の顔を見ると凍り付いている。

「な、なんでお前が…」

「えっ、何でって…ちゃんと約束通り来たじゃないか」

「………」

「一松?どうしたんだ?」

固まった一松に首を傾げる。

「お前まさか、昨日の…?っていうか、はっ?おま、男じゃ…」

「何言ってるんだ一松、私はれっきとした女だ!昨日もちゃんと女性らしい姿を見ただろう!一松…?おーい!」

一松は何を勘違いしていたのか、顔を真っ青にして開いた口が塞がらない状態だ。ま、まさか…!

「まさかとは思うが…一松、私をずっと男だと思っていたのか…?もしかして昨日の姿も、私だと気付かなかったんじゃ…」

顔色を伺い問うと、一松は黙ったまま気まずそうに頷いた。そんな…トト子の言う通りだったなんて…!それでも、一松が折角付き合ってくれるってことになったのに、白紙になんてしたくない。もしかして私だって分かった途端振られるんじゃ…!そう思ったら急に不安になって、ぽろぽろと涙が溢れ出して一松に抱きついた。

「いっ、いぢまづ…っ!うええ、きらいにならないでぇ…!」

「うおっ、べ、別に嫌いになんかならないって…」

「ほ、ほんと…?」

「うん…ずっと勘違いしてて悪かった…。」

バツが悪そうに視線を落とす一松が何だか可愛くて、唇にキスを落とすと昨日みたいに顔を真っ赤にさせた。

「〜っ!」

「じゃあ…このまま私と付き合ってくれる…?」

「うん…また昨日みたいな格好してくれるなら」

「えっそれは無理だな…」

「は?なんで」

「恥ずかしい…から…どうせ似合わないし…」

肩を落とし俯くと、今度は一松が私の唇にちゅっ、とキスをした。不意のキスに心臓がどくんととびはねる。そして私の両肩を掴み、真っ直ぐ私の目を見た。

「すごく…か、可愛かったし、似合って、た…」

最後の方は声が小さくなっていて、一松の顔は変わらず真っ赤で。照れている一松がすごくかわいい。私に可愛いと言ってくれたことは凄く嬉しいけど、私なんかより一松の方がずっと可愛いよ。男にこんなこと思うなんて変だし怒られるから言わないけど。

「…た、たまにならいいけどっ」

それでも、やっぱり褒めてくれたことは嬉しくて。恥ずかしがり屋で単純な私は、明日またトト子に服を選んでもらおうと心の中で想ったのだ。


−−−−

通りすがりの松 さま
リクエストありがとうございましたー!「一松に猛アタックする男に間違われやすいイケメン女子と、男だと勘違いしている一松」という面白い設定で、書くのも難しかったんですがとても楽しかったです!(*⌒▽⌒*)
一生懸命書いたので、気に入って頂けると嬉しいです〜…!><

またいつかリクエスト企画やると思うので、気が向いたらその時はまた是非よろしくお願いします〜!
この度はありがとうございました!

百瀬 るり
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