「キライ」なんて言わせない
一松が好きだ。それはもう、凄く好きだ。どれくらい好きとかそういう言葉では表せないくらいに兎に角好きなんだ。
「一松、好きだ」
「……」
「一松、凄く好きだぞ」
「………」
「一松、愛し…」
「あのさあ、ほんといい加減にしてくんないかなァ。好きとか愛してるとか気持ち悪いだろ普通。ていうか何、何でお前が僕を?ないでしょ、ないない。有り得ないから。」
「そんな照れなくてもい…」
「照れてないから、消えろ」
こんなにも愛情をアピールしていてるというのに、こんなにも私は一松を好きだというのに何故振り向いてくれないんだろう。私に何か直すべき所があれば改善の努力をするのに。ああ、でもつっけんどんな一松もかっこいいしかわいい…。にやにやが顔に出てしまったらしく、一松はゴミを見るみたいな目でもう一度「ほんと気持ち悪いよ、お前」と言った。
夜は友達のトト子と会う予定があって、待ち合わせ場所へと向かう。待ち合わせ場所に着き、トト子を待っていると「すみません」と声をかけられた。
「あの、これから予定あるんですか?」
綺麗めな感じの女性が微笑みながら問う。すみません人を待っていて…と断ると残念そうに引き返していった。
「また逆ナンされてたの?」
後ろからトト子の声が聞こえて振り返る。少し呆れたような、そんな表情をしていた。
「だから、逆ナンじゃないって。私は女、相手も女だっただろ?でも凄いよなあ、初対面の人に声をかけるなんて」
「いや、逆ナンだろ!あんた男に間違われるんだから、さっきの子もるりが男だと思って声かけたのよ」
呆れているトト子と歩き出してカフェへと入る。トト子はカフェラテ、自分はアイスコーヒーを頼んで席へと着く。
「ほんと、勿体無いわよねー。あんた美人っていうかイケメンっていうか…女の子らしい格好すれば絶対かわいいのに。今だってこのお店の店員さんやらお客さんがチラチラあんたのこと見てるわよ」
「えっ?別に私のこと見てる訳じゃないだろ?ていうか、そういうワンピースとかスカートとか苦手なんだ。似合わないだろうし、恥ずかしいし…化粧もしたことないしさ」
注文していたドリンクがきて、ストローで氷を混ぜながら溜息をつく。早速今日会った目的…トト子に最近出来た好きな人の話をした。先ほどの一松の対応や言動、全く相手にされないこと。
「それ…相手もるりのこと男だって勘違いしてるんじゃないの」
「えっ、まさかぁ」
「いやそのルックスやファッションで何で言いきれるのよ」
確かに私は学生の頃から街を歩いていると知らない女性に声をかけられたり、学校ではファンクラブがあったり、バレンタインのチョコも沢山貰ったし、ファッションだってスカートやワンピースは着ない。ジーンズ等のパンツスタイルが基本で暖色系のかわいい色合いのものは着ない。化粧だってしたこともない。トト子はいつだって「勿体無い」と言うけど、自分がかわいい格好をすることに抵抗があるんだ。どうせ似合わないだろうって…。でも好きな人の話をした今、トト子は何故か燃えるような目つきをすると私の手を引いて店を出た。あっ、アイスコーヒーまだ残ってたのに…。
「ちょっ、どこ行くんだよ」
「決まってるでしょ!まず洋服、それからヘアサロン!化粧は私がしてあげるから!」
「へっ、ええ?」
そこから色んなお店を周り、洋服からアクセサリー、鞄から靴まで一色揃え終えるとヘアサロンへ連れて行かれ、終わった後にはトト子の家で強制的に化粧をされた。
全身鏡の前に連れて行かれて、思わず息を呑んだ。これが、自分…?パステルカラーのピンクのニットに白いレースのスカート。ただ短かっただけの髪もお洒落にアレンジされていて化粧をした顔はじっと見つめても別人の様だった。トト子は満足気に「これなら大丈夫!」と自信満々で背中を押してくれた。恥ずかしながらも、一松へ会いに行く。いつもは遠慮なく開ける玄関も、今日は手が震える。
ガラリと戸を開けて2階へ上がる。深呼吸をして、襖を開けた。