「やめるな」

「あれ、百瀬は?」

「とっくに帰りましたけど」

いつもの時間になっても来ないので教室に迎えに行ってみると、残っていた生徒達が答えた。

「何か今日元気なかったよね」

その言葉を聞いて、何も分からない訳じゃない。でもきっと、これでいいんだ。これで…。あいつは生徒、俺は教師。あいつが傷ついたとしても、こうするしかなかった。
そう思うのに、足は勝手に動いていた。百瀬を見つけるまでは時間はかからなかった。学校から百瀬の家への帰り道にある公園。キイ、と小さく揺れるブランコに乗る百瀬は夕陽に照らされていてその表情をより切なく見せた。

「何でここにいるんですか」

そう言う百瀬の声は少し震えていて、こっちを向かないせいで泣いているのかは分からなかった。

「お前を、探してた」

駄目だ、こんな事言ったら。期待させちまう。突き放したのは俺なのに。
頭の中では必死に制止する声が聞こえているのに、気持ちはどんどん大きくなるばかりだ。

「もうやめる、好きでいるの」

百瀬が呟いた瞬間、言い終わらないうちに抱き締めていた。あー、頭の中がもうごちゃごちゃして分からねえ。抱きしめる腕にぎゅっと力を込めて漸く口から出た言葉は。

「…やめるな」
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