「は?」

静かな私達の空間を壊したのは私のこの間抜けな声だった。「立候補したい」と真っ直ぐに目を見て言われたのだ。セックスフレンドの立候補なんか後にも先にもないだろう。そりゃこんな間抜けな声だって出る。

「いや、私まずセフレを探している訳じゃないからね?友達に勧められて、どうかなぁなんて考えていただけで、寧ろ後ろ向きな方というか…ていうか、それ冗談?」

真面目に受け答えしてしまった後に、一応冗談か聞いてみたが彼は真面目に立候補をしているとのことだった。

「あのさぁ、考えなしに言ってるんだろうけど…一度関係を持ったら元には戻れないと思うよ」
「それはるりが俺を好きになっちゃうから、的な?」
「うるさい、恋愛感情もそうだけど、いつか終わりが来る時友達には戻れないって言ってんの」
「なんで?戻ればいいじゃん、終わる時は友達に戻ろって」
「…………」

だからそんな簡単なものではない、と言いたいのにどう伝えても彼には理解出来ないようだった。人間の心情や男女のもつれなんてそんな言葉一つで元に戻れるものではない。言ってしまえば、言葉一つで関係は一気に崩れてしまうことだってある。私はこの幼馴染達が何だかんだ友達としてとても気を許しているくらいに好きだ。友達は「好きになったら付き合っちゃえば」なんて言っていたけど、私には友達の考えもおそ松の考えもやっぱり素直に納得出来るものではなかった。

「なぁ、お前らも立候補するだろ?」
「いや、俺は…」
「別にいいよ俺は」

積極的で能天気なおそ松と違って、二人は乗り気ではないようだった。その反応に私だけが頭がかたい訳では無いのだと安心した。裏切られたかのような表情のおそ松は、強引に賭けに出た。

「じゃあ、俺となんか勝負しようぜ」
「はい?」
「俺が買ったら立候補成立ね!負けたらなんでも言うこと聞くから」
「おいおそ松、るりが嫌がっているだろうやめないか」

カラ松が真面目な顔で止めてくれたけど、酒も結構進んだこの状況でおそ松は言うことを聞こうとはしなかった。仕方ない、ここは勝負に乗ろう。例えおそ松が買ったとしてももっと飲ませてしまえば酔いで記憶を無くさせればいい。問い詰められても寝ぼけていたとか夢だとか言ってしらを切る。

「はぁ…、分かったよ」
「えっ、いいのかるり」
「まあ、私にも考えがあるから」

そうして私とおそ松はセックスフレンドになるかどうかという、未だかつて無い訳の分からない勝負をする羽目になった。


立候補させて頂きます


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