ふられた。いや、ふられたというのは間違い。ふられる前に終わったのだ。会社の2つ上の先輩は仕事も出来て誰とでも打ち解けられる為、上司同僚後輩みんなから信頼されている。ルックスも良し。そのためモテる。そりゃそうだ、私も彼に好意をよせる者の一人だし。告白なんて考えてもいなかった。ライバルも多いし。だけど飲み会などの席や何かの企画で一緒になった時仲良くなれたら、なんて淡い期待くらいで。

経理課の佐藤さんと付き合ってるらしいよ、そんな噂が流れ始めて少し経った頃。駅の近くの飲み屋から2人で出てくる所を見かけた。会社の人と、とか友達と、という距離感ではなかった。


高校時代からの友達が言った

「彼氏がいない時、セフレいると楽だよ」

私には彼氏はいない。だけど、仕事が忙しくて心に潤いがない。癒されたいし性欲も解消したい。そんな想いがあるのは20代女性の普通の欲求だ。だけどセフレなんていた事もなかったし作ろうとも思ったこともなかった。相手を好きになることはないの?と質問すると、その整った顔立ちで少し悩む素振りを見せた。

「まあ、相手は友達でもいいし全く知らない人でもいいし?それで好きになったらそこから付き合えばいいし」

なんともお気楽な彼女らしい答えだと思った。愛情のない身体だけの関係で、もし自分が相手を好きになってしまったら?必ずしも相手が自分を好きになってくれるかなんて分からないのに。そんな怖いこと出来るか。そう思っていたのに、私の心は空っぽだった。付き合えるなんて思っていなかった、それは本当の気持ちだったけど、彼に彼女が出来たことは自分で思っているよりもショックだった。

それから数日後に幼馴染と飲みに行くことになった。苗字は松野といって、なんと六人も兄弟がいる。しかも六つ子。周りは区別がつかないようだが、長い付き合いだから私にはそれぞれがはっきり誰だと判別出来る。その日はみんなで飲みに行こうぜと話していたのに、来たのはおそ松とカラ松と一松だった。他の三人は体調不良やら予定やらが出来てしまったらしい。

「えっ、お前好きなやつなんていたの」
「何その言い方」

デリカシーの欠片を言ったのは勿論松野おそ松。反撃するかのように言い返した。だけど意外に思っているのはおそ松だけではなく、他の二人も同様らしかった。

「で、友達に「セフレ作りなよぉ!」って言われて」
「はっ!?セフレ!?ていうか何、そんな簡単にセフレって作れんの?いいよなぁ女は、援交だってセフレだって得するし探す手間だってないしさぁ」
「それはアンタの偏見でしょ」
「え、それでもういるの?セフレ」

ざわざわと騒がしいはずの居酒屋が、私達の空間だけ切り取ったようにしんと空気が止まった。おちゃらけていたおそ松も、難しそうな顔をしていたカラ松も、黙って唐揚げを食べていた一松も私の答えを待った。

「いや、別に作るって決めたわけじゃないし」
「じゃあまだ?」
「まだっていうか、うん、まぁ…」

「じゃあ俺、立候補したい」



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