やさしい世界征服

(身体が重い…)

ソファから体を起こすと、身体の怠さや頭痛や咳が一気に襲ってきた。

「……もしかしてうつった?」
「…もしかしなくてもうつったみたい」
「もしかして…昨日のせい」
「…………」

昨日、とはキスのことだろう。正直あれだけが原因ではなく、彼にベッドを譲って自分はソファで寝ていたこと、最近急に寒くなったこと、仕事が忙しく免疫が下がったこと等様々ある。

「多分、違うよ」

熱は38.5度あり、流石に出勤は無理そうだと会社へ休みの電話を入れた。はあああ…っと大きく溜息を吐くとソファへ倒れ込んだ。

「ほら、」

顔を上げると彼が口を尖らせたまま腕を引っ張られる。寝室へと連れて行かれ、ベッドへ寝かせられた。二日間だけど、久しぶりのベッドに感じた。

「あ、ありがと…」
「ふっ、自分の部屋でしょ」

自分の部屋の、自分のベッドなのに、二日間で彼の匂いに染まってしまったようだ。深呼吸すると、私のでは無い彼の匂いで満ちていった。

「あつっ、」と声が聞こえ、目を覚ますと彼がキッチンに立っているのが見えた。カチャカチャと食器の音を鳴らしながら寝室へ来た彼は私が起きているのを見ると、恥ずかしそうに目を逸らす。トレーの上に乗せられていたのは、湯気のたったお粥とスプーン、そしてスポーツドリンクだった。

「…余ってたお粥があったから」
「……ありがとう」

変なの、今度は私が看病されている。
お礼を言うと彼は目をおよがせたあと、小さく「…ん、」と呟いた。
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