曖昧
脳天に、トスッとチョップをくらった。
「だって、放っておけないでしょ」
眩しいくらいに真っ直ぐな目だから、何も言えなくなった。人ってこんなにも強い眼差しをするものなのか。
「別に感謝されたいとか思ってないし」
そんなの偽善かもしれない。だけど何だか自分が凄く汚いもののように感じた。
(なんだそれ、もう汚れてるくせに)
ゴトゴトゴト…じゅーっ!
二人で何の音かと見ると、鍋が沸騰してお湯が溢れかけているところだった。
「わーっ!鍋!鍋!」
慌てて止めると、深い溜息をつく。そして目が合うと、お互い笑みが零れた。ぼすん、とソファに腰をかけると少し頭がガンガンと痛くなってきた。
「あー、なんか熱上がってきたかも」
「ええっ?!」
「キスしたからかな」
「…そっちがしてきたんでしょ」
てっきり大人の女だから、キスなんか慣れてるもんかと思っていたけれど、彼女は顔を真っ赤にして俯いた。
(何だ、可愛いとこあんじゃん。…ん?可愛いってなんだよ…)
何でキスなんかしてしまったのか。分からない、だけど本能か何か。衝動的に身体が動いていた。恐らく熱があるから、変なことをしてしまったんだ。
再び鍋を作り始めた彼女の背中を見つめた。彼女の耳はまだ赤いままだった。