甘ったるいキスなんかクソくらえ
目を覚ますと知らない景色が広がった。オフホワイトの天井、黄色のカーテン、うさぎのぬいぐるみ。
(あ、そうか俺昨日知らない女の家に来たんだ)
疲れていたのか、体調が悪かったせいなのか、目を閉じたら直ぐに眠ってしまったらしい。沢山寝たからか、まだ怠さはあるものの昨日程熱はないように感じた。起き上がってリビングの方へ行くと、テーブルの上にお粥とスポーツドリンク、薬が置いてあった。そしてその隣にはメモ用紙が添えてある。
【仕事に行ってきます。食べられそうだったら、食べて】
女性らしい、綺麗な字だった。
何も食べて居なかったからお腹は減っていた。時計を見ると、もう11:30をまわっている。
あんなに寝たのに、腹が満たされると再び睡魔が襲ってきて、ベッドへ埋もれた。
ガチャ、と扉が開く音で目が覚めた時はもう部屋の中は真っ暗になっていた。
「…あっ、具合どう?」
「…もう、平気」
「ほんとに?」
ピピピピ…【38度】
「やっぱり、そんなにすぐ回復するわけないもん。病院行った方がいいよ」
「いいよ、保険証ないし」
「……取り敢えず、今夜は鍋にするから食べて」
何でこの女は、俺をここへ連れてきたんだろ。何でここまで世話するんだろう。俺みたいなゴミ、放っておけばいいのに。
「ねえ」
料理の準備をしている彼女の背後に立つ。そこまで身長差がある訳では無いが、華奢な身体に細い腰。サラサラとした髪。
「何で、俺なんかに優しくすんの」
「えっ」
腕を掴むと強引にキスをした。柔らかい、唇。鼻にかかる、シャンプーの香り。優しい口付けなんかじゃない。やり方なんか知らない。
「んっ、んんっ…!?」
「…はァッ、ありがとうって感謝でもされると思った?女一人暮らしで、簡単に男連れ込んでさ」
我ながらなんて生意気なクソガキだと思った。思いながら、こいつの唇がクセになりそうで、戸惑う女の顔に再び顔を近づけた。