いやよいやよも好きのうち?

「ちょっ、ちょっと待って…!」

無言で腕を掴まれたままぐいぐいと歩いていく。忘れていたけど、ここはホテル街だった。

「待ってってば…!」
「なんで」

此方も負けじと足を踏ん張り止める。
少し前まで、恥ずかしげもなく道端で抱きしめ合いキスをした。周りの人の目も気にせずに。唇を離した途端、脳が冷静さを取り戻した。お互い気まずそうに数秒目を逸らすと、彼は黙って手を引き歩き出した。どこへ行くの、どうしたのと声をかけるも答えは帰ってこない。そして沢山あるホテルのひとつのエントランスに入った時、私の声は大きく響いたのだ。

「なんでって…ここ、ホテル…だよ」

恥ずかしくて声が小さくなっていく。そんなの、ここへ入る理由なんてひとつしかないじゃない。

「知ってる。ここに来てやることなんてひとつでしょ」
「う、」

自分の頭でも分かっていたことをはっきりと言葉にされて何も言えなくなる。それに、と言葉を付け足した。

「今めちゃくちゃにあんたを抱きたい」
「っ、」

その目は、私をしっかりと捕らえていて離さない。熱の篭った瞳が私を「NO」と言わせてくれない。
私の欠点、流されやすいところはなかなか直せそうにない。
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