振り向いた先に
「え、あの…」
腕を掴まれたままだんだんと路地裏へ進んでいく。心臓がどくんどくん、と早くなっていく。いやな汗がじんわりと身体にまとわりついていくのが分かった。
いつの間にか、ホテルが立ち並ぶ場所に来ていた。
「俺さ、るりちゃんのこと気になってたんだ。彼氏、いないよね?」
「…ありがとうございます。でも、ごめんなさい」
「何してんの」
いつぶりかの、あの声が聞こえた。こんなに人や電車や居酒屋のざわついた音や声が混ざり合う中で、彼の怠そうな声だけがわたしの心に響いた。もしかしたら、違うかもしれない。他人かもしれない。私に話しかけたわけじゃない、知らない誰か。
でも、振り向く前に確信していた。そして、振り向いて彼の顔を見たら泣きそうになってしまった。
「え…誰、弟?」
突然現れた彼に、先輩は困惑した様子で私を見た。そして掴まれたままだった腕を振り払うように、彼がわたしの腕を掴んだ。
「こいつの、彼氏」