揺らぐヴェールに霞む視線

いつもは定時で上がれるのに、今日は二時間ほど残業してしまった。会社を出ると冷たい風が一気に身体を冷やす。今日は寒くなると聞いていたから、マフラーを持ってきて良かった。駅に向かって歩きながら鞄の中から薄手のカシミヤマフラーを取り出す。と、突然風が吹いてマフラーがぶわっと宙へ舞った。

(わっ…!?)

慌てて追いかけると、居酒屋の路地裏に落ちているのを発見した。お気に入りのマフラーなのに、と拾おうとしたとき足が止まる。暗くて分からなかったが、そこには人が座り込んでいた。酔っ払いとか変な人だったら嫌だな、と思いながら恐る恐る近付く。

その人物は私のヒールの音に気付くとゆっくりと顔を上げた。恐らく歳は高校生か、大学生くらい。鋭い目付きを更にきつく細めた。何故か、私達は十秒ほどだろうか…見つめあっていた。

「あ、あの…大丈夫?」

思わず声をかけるが、相手から反応は何も無い。マフラーを取るとき、近くで顔を見ると顔は赤くじんわりと汗をかいているようだった。少し呼吸も荒いようにも見える。彼の額に手を当てると、高熱だということが直ぐに分かった。

「ねっ…、ねえ!酷い熱だよ…!」
「…………」

どうしよう、と周りを見るもどうしようもない。でもこんな状態の男の子を放ってはおけない。

「…………ねえ、立てる?」
「………」
「取り敢えず、私の家に来て」

カシミヤマフラーを軽く払い、彼の首に巻いた。
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