置き去りの感情

俺の名前、教えようと思った。そんで、あんたの名前も知りたいって。でも彼女はバレバレの嘘をついて逃げるように部屋を飛び出した。
ずっと、ずっと、抱きたいと思っていた。我慢してた。あの人が自分を子供扱いしていることは分かっていたけど、それでも名前も事情も無理に聞かず優しくしてくれた。一緒にいる時間が増えていく度にもっと一緒にいたいと思うようになって。俺よりもずっと大人でしっかりしてて、だけどどこかぬけてるところとか、笑うと子供みたいな可愛さがあるところとか、風呂上がりのいい匂いとか。

恋愛なんてしたことないから分からない。多分普通は出会って好きになって告白して、それからセックスして同棲するんだよ。それなのに俺達は順番が真反対だ。出会って何も知らないまま同棲して勝手に好きになってセックスした。
俺は後悔してないんだってこと、あんたのこと好きなんだってこと伝えたらあの人はどんな顔をするだろう。もしかしたらもう一緒にいられないかもしれない。無理だって拒絶されるかもしれない。そしたらどうしよう。俺なんか、受け入れて貰える自信なんか微塵もないけど。

「あ、」

そのままのトーストと珈琲の横に、あの人のスマートフォンが置き去りになっていた。
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