恋と変は似ていた

(「恋と変は似ている」の続編です)


私の妹はすごく可愛くて、同じように胸が大きい。私にはコンプレックスでしかない胸も、妹は特にマイナスには思っていないようだった。いつも俯いていた私と違って、明るく笑顔でいる妹は男女共に好かれる。だから、一松くんももしかしたら妹に惹かれてしまうかも…という思いが頭を過ぎった。

「お邪魔します…」

一松くんが緊張した様子で家に上がる。シンとした階段を上がり、自分の部屋へ招き入れる。毎日見ているこの風景が、好きな人がいるというだけで全く別の空間に変わる。

「これ、この間言ってた映画借りてきたよ」

以前、今テレビで話題の猫が出ている泣ける映画を私が見たいと言ったのだ。一松くんは映画はあまり見ないけど、猫が好きだから二人で見ようと言っていた。早速セッティングをしていると、階段をのぼる軽やかな音が聞こえてきた。嫌な予感がする、そう思った時ノックもせずに扉が開けられた。

「……お姉ちゃ…」
「…お邪魔してます」

気まずそうに浅く頭を下げ挨拶をする一松くんに対し、妹は大きい瞳をぱちぱちと瞬きするとぱっと笑顔を咲かせた。

「えーっ!えーっ!?もしかしてお姉ちゃんの彼氏ー!?」
「……まぁ」
「お姉ちゃん彼氏出来たなんて一言も言ってなかったじゃん!」

だって言いたくなかったし…。とは言えず苦笑いで誤魔化す。一松くんには妹の存在も教えていなかったので、面食らっているようだった。

「映画?わたしも見たい!」
「えっ」

何の映画かも知らないのに、しかもこういう時って普通気を利かせて出ていくもんじゃないの?そんな私の気持ちにも気付かず「いいでしょ?」と迫られてはわたしも一松くんも嫌とは言えなかった。

「かわいいー!一松先輩、猫好きなの?」
「うん」
「テレビの動物番組とかつい見ちゃうんたもよねー!」
「木曜20時からの犬猫大集合はよく見る」
「あ、わたしもー!」
「…………」

映画見るって言ってたくせに、結局話してばかりで見てないし。何故か私と一松くんの間に座るし。一松くんも何だか楽しそうだし。私の表情はきっとどんどん曇っていってるんだろう。鏡を見なくても分かる。

「友達の家の猫、まだ産まれたばかりなんだけどめっちゃかわいいんだよ」

猫の写真を見せようと近くなる距離に一松くんは若干体を引く。わざとなのか無自覚なのか、妹の大きい胸が一松くんの腕に当たっている。一松くんは顔を赤くしながら「えっ、あ、うん…」と満更でもなさそうだった。

その顔を見た瞬間、我慢が出来なかった。泣きたくないのに、私の意思とは反対に涙はぽろぽろと零れていく。

「……っ、」
「えっ、何、なんで泣いてるの」

素っ頓狂な反応の二人に、怒りと呆れがいり混ざった感情が一気に脳を支配していく。私は何も言う気がなくなって、黙ったまま部屋を出た。何より、もうあの場に居たくなかった。

とぼとぼと夕暮れの商店街を歩きながら溜息をついた。二人を置いてきてしまった。わたし、何やってるんだろう。心の中で文句ばっかり言って、結局一人で逃げてきて。

「あれ、百瀬さん?」

顔を上げると緑色のパーカーが目に入ってきた。その後ろから赤色のパーカーも。

「あれ、一松のカノジョじゃん」
「どうしたの?今日ってデートじゃ…」
「あ、分かった!喧嘩でしょ!あいつデリカシーないから」
「お前が言うなっ!」

「それは…その、」
「るりっ!」

商店街に響く、一松くんの低い声。あんなに大きな声出してるの聞いたことない。急いで追いかけてきてくれたんだろう。追いかけてきてくれたことに、心の中でほっと安心していた。それなのに。

「な、何しにきたの?」
「………」
「わたし、これから二人とデ、デートするから…っ」
「「えっ!?」」

驚く二人の腕を取り、わざとらしく自分の胸に当たるように腕を組んだ。一松くんは何も言わないけど、目の奥が黒くなったような気がした。

「うっわ、やわらけぇ…!」
「あ、あああ、あの百瀬さん…!」

「ふーん、あっそう。でも、俺のが先約だから」
「あっ、」

一松くんは私を二人から引き剥がすと乱暴に私の手を取り歩き出した。この光景、前にも見たことある。


「あれ、絶対怒ってたよな」
「まぁそうだろうね…」
「にしても柔らかかったな〜!女の子ってあんなに柔らかいのか〜!いい匂いするし!チョロ松お前今夜のオナネタにするんだろ」
「…しねーよ!!弟の彼女だぞ!!」


商店街の奥、人通りの少ない裏道。いきなり壁に押し付けられ、激しくねっとりとしたキスをされる。身動きも取れない。息も上手くできない。舌が絡まってきて、逃げても追いかけてくる。

「んっ、はあっ…!」
「…おまえ、どういうつもりだよ」

出会って、付き合って今まで一緒にいて、こんな風に睨まれたことはなかった。

「どういうつもりって…一松くんがずっと妹にデレデレして…っ、満更でもないような顔して…っ!私ばっかりヤキモチやいて…!一松くんはおっぱいが大きければ誰でもいいんでしょ!」

自分の想いをぶつけたら、涙が止まらなくなって頬を伝っていく。私の泣き顔を見た一松くんは、すこしバツの悪い顔をしたまま小さな声で「…ごめん」と呟いた。

「でも、俺だって嫉妬した…。るりのおっぱい当たって、あいつら喜んでたし。絶対今夜オナネタにされるし。…俺のなのに」
「んなっ、そんなこと…」

首筋を舐められながら、耳元で囁かれる。

「ひぁ…っ」
「おっぱい大きくたって、るりのじゃなきゃ意味無い。感じやすくて、その感じてる顔もエロくて、声もそそられる。」
「ん…っ、ばかぁ…!」

そっか、一松くんも嫉妬してくれたんだ。自分だけじゃなかった安心感や、心がぽかぽかするような嬉しい気持ちでいっぱいになる。そして、拗ねた一松くんが可愛くて思わず吹き出した。

「ぷっ、ふふっ」
「何笑ってんの」
「いや、可愛いなって思って」

一松くんはまた拗ねたようにむすっとそっぽを向いた。ほんとに私は、この人にどれだけ惚れているんだろう。一松くんは私をちゃんと好きでいてくれている。だけどそれでも不安になっちゃうくらい、足りないくらい、私はどんどん大好きになっていくんだ。

拗ねたままの頬にちゅっ、とキスをした。

「ごめんね、一松くん」
「俺も…ごめん」
「帰って映画見よっか」
「うん」
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