始まっていたんだね、恋物語

私の実家の、三軒隣の松野さんの家には六つ子がいる。ご近所さんや高校の同級生達はみんな区別がつかないらしいが、私には分かる。それは幼稚園からずっと同じだから。確かに顔は似ているけど、それぞれちゃんと見れば顔も違うし性格だって違う。それが分かるのも所謂、幼馴染、腐れ縁だから。親同士も仲が良く、お魚屋さんをやっているトト子もその一人である。
私はトト子も松野家も好きだ。だけど、一人だけ嫌いな奴がいる。四男の松野一松。一人だけ会話にも入ってこないし私のことをよく睨んでくるし(目付きが悪いからなのかもしれないが)そのくせ何故か二人きりになると意地悪ばかりしてくる。しかも馬鹿にしたような態度ばかり。
いつからだったんだろう。もう覚えていない。だけど、幼稚園の頃とか小学校低学年の頃は仲良くしていたような気がする。私が彼に嫌われるような何かをしてしまったのか、それとも松野一松の性格が勝手に歪んでしまったのかは分からない。

「るり、これ筍沢山貰ったのよ、弱井さんとこと松野さんとこに持って行って」

親戚から届いた旬の筍を持っていくことになり家を出た。こうして野菜やらなんやらをお裾分けしたりして貰ったりも何度もしている。家が近いのでまず松野家へ向かうと、誰も居ないようだった。トト子の家に行ったあとまた寄ればいいかと玄関から離れようとした時、引き戸がゆっくりと開かれた。

「……」
「あ、これ…筍余ってるからって」

出てきたのは松野一松。怠そうな表情で、私をじっと見つめた。はい、とスーパーの袋に入れた筍を差し出すと無言で受け取り「…ありがとう」と小さく呟いた。じゃあ帰るね、と言いかけて一松のゴツゴツとした手が私の手首を掴んだ。思わず「えっ」と言葉が零れる。

「上がってけば」
「あ、うん…」
「もう少しで十四松帰ってくるし」

その言葉にほっとした。一松と二人きりなんて何話したらいいか分からないし。会話も続かない。すっと掴まれた腕を離すと家の中に入って行ったので、わたしもその後に続いた。

今でもこうして家に来ることもあるし、みんなとご飯を食べたり遊んだりもするけど小中学生の時に比べたら回数は減った。趣味や好みも違ってくるし勿論思春期だってある。男女の友情がずっと続くのは結構難しいのかもしれない。
居間に上がると、しんとした空気が何だか嫌だと感じた。テレビを付けようとリモコンの電源ボタンを押した。そして後悔した。

「あぁんっ!いやぁっ、!」

画面に映し出されたのは裸になった女優と、それを攻め立てる男優の姿。生々しいその映像と厭らしい喘ぎ声に、リモコンを持ったまま止まってしまった。数秒後に、ピッと再び電源ボタンを押しテレビを消した。え、なんでこれ流れるの。一体誰が見ていたの?いや、彼らはもうAVに興味があるし見るのも当たり前だろう。ああ、なんで私はテレビなんか付けてしまったんだろう。いやだってAVが流れるなんて思わないじゃない。
再びの沈黙。こんなに気まずい沈黙は生まれて初めてだし、この先もこんな気持ちになることはきっとないだろう。

「あ、ごめん」

固まったままの私に一松が声をかけた。いつもより少しだけトーンの高い声のような気がした。目線だけを彼に向けると、それは全く詫びるといった表情ではなかった。目と口はにやりとニヒルに歪んでいたのだ。その顔を見た瞬間に「ああ、こいつか」と納得した。


「……最低」
「さっきまで抜いてたのは確かだけど、勝手にテレビ付けたのはそっちでしょ」

確かにそうだ。何も言えなくなって、唇をかたく結んだ。え、ちょっと待って。ということはその手で私の腕を掴んだの?うわ、最悪。最低。死ねよこいつ。ああもう早く十四松帰ってこないかな、それかもう帰ろうか。

そわそわと落ち着かなくてトイレにでも行こうかと顔を上げると、先程までテーブルの向う側にいた一松が目の前に移動していた。それもすごく近い距離で、私の顔を覗き込むように。

「わっ、なに…」
「おまえさ、俺のこと好きでしょ」

まさか思ってもいなかったことをさも言い当てたかのように突き付けられた。いやいや、そんなのどこをどう見たらそう思うの。そんな少女漫画や恋愛ドラマでしか聴いたことの無い台詞。よく恥ずかしげもなく言えるよね。

「な、何言ってんの?寧ろ嫌いだし…!」
「だって顔赤いし」

それは確かに心臓はドッドッドッと音を立てて爆発しそうだし、変な汗もかいてるし、顔がわーっと熱い。でもそれは部屋が暑いからで、そして一松が急に目の前に近付いたせいで。だけどその言い訳のひとつもまともに言い返せやしない。ただ、目線を逸らすことしか出来ない。

「キス、してみる」
「いや無理だよ…」

無理だと言ったのに、一松は会話をする気はあるのか?こっちの返答なんかお構い無しで更に距離を縮めた。触れた唇は、思ったよりも硬い。男の子の唇だから、そんなものなのかもしれない。反対に一松は「やわらかい」と呟いた。
自分からキスをしてきたくせに、顔を離した一松は耳まで真っ赤になっていた。不覚にもその顔にきゅんとしてしまった気がするが、気の所為だ。

「ん、ちょっと」

一度ならず、二度三度とキスを繰り返した。私はただただ受け入れるだけになってしまい、否定は口だけになっていた。こんなのおかしい、嫌いな筈なのに。
ぶっきらぼうで不器用なくせに、とても優しくキスをするから心臓がむずむずとした。
気が付けば、一松は私の下着に手を入れて胸をやわやわと触りその敏感なところを指で摘んでいた。誰にも触らせたことのないその場所。自分だって触ることもないそこは一松の手で触られただけで全身に鳥肌がたつような感覚になった。
太腿をさわさわともどかしくなぞられ、下着の上に触れた。

「あっ、」

下着の上からその中心部を指で擦られる度に腰がぴくんと反応してしまう。一松がしゃがみこんで私の足の間に顔を埋めた。そこまで何も言えなかったされるがままでいた私も、恥ずかしさで初めて抵抗をした。一松のぼさぼさの頭をぐっと離そうと押すけど、負けじと離れようとはしない。擽ったいし、恥ずかしい。一松がペロ、と太腿を舐めた。

「ひ…っ!」

舐めたり、キスをしたり、まるで宝物みたいに大切に扱ってくれているようだった。「なんでそんな、」と問いかけようと言いかけた時、一松が下着の上からその中心部を舌でぐりぐりと押し付けた。

「ひゃぁっ、あ…っ!や、やめっ」

やめてと言ってもやめない、それどころかもっと激しくなっていく。こんなの知らない、こんな気持ちもこんな快感も、こんな一松もこんな自分も。

「…セックスさせて」
「……なんでこんなんなっちゃったの」
「だって、俺のこと好きでしょ」
「また、それ」
「それにもう戻る気もないし戻れない」

いつの間に取り出したのか、一松の勃起したものを私の下着越しに押し付けてきた。ぐい、と下着を雑に脱がせるとソレを押し付けた。私の愛液なのか、彼の先走りなのか、それともその両方か分からないけどその触れた場所は確かに充分に濡れている。
ぐっとゆっくり押し込むと、その硬くなったモノが私の中へ入っていく。嘘、私今一松とセックスしてるんだ。

「いっ、」

ナカが裂けていくような痛みに顔が歪む。全身が力んであそこはズキズキと痛い。ふと、頭に優しく何かが触れた。
ぎゅっと瞑っていた瞼を開くと、一松が私の髪を優しく撫でてくれていた。

「………」
「え、おまえなに泣いてんの」

そんなに痛かった?と、口調まで優しく。確かに痛かった、痛かったんだけど。痛くて涙が出たんじゃない。今までこんなに一松に優しくされたこと無かったのに、身体を重ねている時はこんなに優しいんだって。嬉しく感じてしまう自分と、他の人にもこんななのかなって思ったら悲しくなってしまった自分がごちゃ混ぜになって涙が出たのだ。
何これ、まるで本当に私がこいつを好きみたいじゃないか。

「おまえ、昔から泣き虫だからね」

その優しい声と表情に、私が今どんな気持ちでいるか分からないでしょう。さっきの感情に悔しさが加わって嗚咽が交じる。

「痛いならやめる?まあ、ここでやめるのは非常に生き地獄みたいなもんなんだけど」
「やめない」
「え?」
「…やめないで」

小さく震える声で、はっきりと言葉にした。一松はきょとんとした後目線を逸らして顔を真っ赤に染めた。
今の私たちの関係って何なんだろう、そんなことを考えながら彼を受け入れた。まだ痛みはあったけど、先程と同じように一松は優しく頭を撫でてくれていた。そして次第に痛みは薄れて水音が聴こえてくるようになった。私の口からも自分とは思えない色っぽい声が零れる。

「ふっ、あ…っ!」

ずちゅっ、とそこがどれだけ濡れているのか音で分かる。私に気を遣っているのか、一松はゆっくりと腰を動かしている。

「もう大丈夫だから…っ、好きにしていいよ…」
「そういうこと言われたら、我慢できなくなるよ、いいの」
「…ん、」
「…おまえ、ほんと俺のこと大好きだよね」

ふっと一松らしくない優しい笑顔を見せると、腰を強めに打ち始めた。奥まで届くような感覚に、下半身が快感でおかしくなりそう。

「あっ、あっ!やっ…!奥まで…っ」
「はっ、すげえ…!」
「きもち…っきもちいい…っ!」

ぱん、ぱんっ、一松が私に腰を打ち付けるその肌のぶつかりあう音や、一松の荒い吐息が鼓膜を支配して何も考えられなくなる。

「いい加減、好きって言えよ」
「なんっで…!」
「……なぁ、覚えてる?」

一松は速度を落としゆっくりとした律動へと切り替えた。「何を?」と私が聴くと懐かしそうに話し出した。

「俺がさ、トト子ちゃん可愛いとか好きだってあいつらと一緒になって言ってたの」
「……」
「それからだよ、お前が俺と口聞かなくなったの」
「え、」

うわ、思い出した。小学生の頃、アイドルみたいだねって言われていたトト子と、トト子が大好きな六つ子のみんな。忘れていた、一松に嫌われたわけでもなんでもない。私が一松を避けるようになったんだ。

「そんなの、俺のことが大好きですって言ってるようなもんだろ…っ」
「ぁあっ!?」

再び激しいセックスが再開されて、私はまたされるがままになってしまう。やだ、そんなの。これが恋だなんてずっと気付かなかったなんて、そんな馬鹿な話があるだろうか。しかもそれをその相手に教えてもらうなんてこと。

「うわっ、さっきよりしめつけ、すご…っ!」
「んっ、あっ、あっん!も、だめぇ…っ!」
「はぁっ…!俺ももう…っ!」
「いちま…っ、いちまつ、イッ、ああ…っ!イック…!」

ずちゅんっ、と最奥を突かれた後、白濁色の液体が私の太腿にかけられていた。
お互いの息が荒い中、本当に小さな声で「好き」と囁いた。聴こえてないかも、別にいいけど。と思ったけど一松にはしっかり聴こえていたようで「知ってる」と笑った。
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