わかんない、わかんないよ


次の日になっても、一松くんと廊下ですれ違ったり授業中に一松くんを見ても視線すら合わなかった。私の一方的な気持ちがただすり抜けていくみたいに。その度に私の胸がずきんと痛む。私の世界にはまだ一松くんがいるのに、一松くんの世界からはもう私なんかいなくなっているみたいだ。

放課後になって、思い切って一松くんに声をかけた。

「い、一松くん」

緊張して声が少し掠れる。もしかしたら無視されるかもしれないと思っていたけど、一松くんはゆっくりと振り返った。階段を登っていた一松くんは階段下にいる私を見下ろす形になる。
一松くんはただ黙って私を見下ろしていた。震える声で「あのね、」と言いかけた時、女子生徒が一人階段をおりてきた。通り過ぎてから話をしようと待っていたら、女子生徒が足を踏み外してしまった。

「わっ…!」

ズルッと片足が滑って階段から落ちそうになった時、近くにいた一松くんがその女の子の腕を咄嗟に掴んだ。その為、階段からは落ちずに済んだけど一松くんがその子を抱きしめるような形になっていた。

「あっ…えっと、すすすみません!ありがとうございます…」

彼女は近距離の一松くんに顔を赤くしてしどろもどろになりながらお礼を言う。

「あ…いや、別に…」

一松くんは無愛想に返事をすると彼女から遠慮気味に離れた。その子はお礼をもう一度言うと階段を降りて行った。私と一松くんの間に気まずい沈黙が流れる。一松くんは私を見るとぎょっと瞳を大きくした。

「…何で泣いてんの」

分かんない、わかんないよ。
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