「うわ……一松、お前あんな酷いことるりちゃんに言ったの…?」

チョロ松がドン引きして俺を見た。いや、こいつだけじゃない他の兄弟みんな同じ顔をしていた。そして同じことを思っているのだろう。

「言わないの?」
「え、」
「追いかけないの?」
「………」

十四松が眉間に皺を寄せて俺の肩に手を置いた。俺は、俺は。

「ここでこのままだったら、また同じだよ」
「一松は、どうしたいんだ」

みんなが俯く俺に問いかける。どうしたい?本当の気持ちは?もうるりとすれ違う、そんなのは嫌だ。唇を噛み締めて、公園の茂みから走り出した。公園のベンチで一人落ち込んでいる過去の俺に向かって。

「おい」
「…えっ、はっ?!」
「混乱するだろうけど、話を聞け」
「えっ、いやいやなん…っ」
「話聞けって言ってんだよ!!」

俺の顔を見た過去の俺は、口をあんぐり開けて固まったまま。俺も一旦深呼吸をして、口を開けた。

「…追いかけろ」
「は…、」
「今おまえ、後悔してんだろ。」
「………」
「そのくだらねえプライドのせいで、この先ずっと後悔し続けることになるぞ」

るりのことだと分かると、途端に真剣な顔に変わった。俺の言葉をしっかりと噛み締めるように、じっと俺を見つめていた。

「今しかねえんだよ。変えられるのは…だから、頼む。追いかけてくれ…」

気付けばもう陽も沈まりかけていて、薄暗くなっていた。「…はあ…」と目の前の俺が深い溜息を吐いて重たそうに腰をあげた。

「ったく、なんでこんなめんどくさい性格なのかねぇ」
「…はっ、ほんとに」

呆れたように笑うと、高校生の俺が走り出した。ほんとにさぁ、人って後悔する生き物だよ。俺なんか人生の殆どは後悔してばっかり。でもなってしまったものはしょうがないって、変えようとしなかった。すぐに諦めて、逃げることで楽になろうとしてた。だけどこうして、もしるりに向き合うことが出来たなら、そのチャンスが与えられたのなら。無駄にしたくない。




「るり…ッ!」

あいつのいつもの帰り道、別の公園、近くのコンビニ、家。探してもいなかった。途端、急に不安になった。このままもう会えない気がして。もう一人の俺は、後悔してた。ずっと後悔してたんだきっと。

走り回って、息も切れ切れになった頃。あいつの家の近くの神社が目に入った。もしかしたら、と階段をかけ登る。登りきって、神社の入口の石段にあいつはいた。暗くてよく見えなかったけど、すぐに分かった。

砂利を歩く足音で、るりが顔を上げた。驚いたその顔には、大粒の涙と赤くなった瞼。やっぱり、泣かせた。当然か。

「…一松、ご、ごめんね…もう、付き纏ったりしないから…」

「ごめん、」
「え…」
「…ごめん…っ」

石段に座るるりに向かって、はっきりと言葉にした。ずっと言いたかった言葉。砂利に両膝をついて、手のひらも地面について何て情けない。泣かせたのは俺なのに、俺が泣いてどうすんだ。

「俺…ッ、本当は嬉しかった…なのに、俺、馬鹿でごめん…!酷いことばっか言って…っ」

るりは何も言わない。もしかしたらもう見放されたのかもしれない。散々冷たくしてきた挙句、酷いことも沢山言ったんだ。
だけど俺は、一番言わなくちゃいけない言葉をまだ伝えてない。

「今更かもしれないけど、俺はるりが好きだ」

真っ直ぐに眼を見て言えた。一度止まった彼女の涙は再びぽろぽろと溢れ出す。どうしたらいいか、と考えていたその時ふわりと柔らかい匂いに包まれた。

「今更なんかじゃない、」
「るり、好きだ」
「うん…っ、わたしも好き、大好き…っ!」

今まで何度も抱き締められてきた。その体に初めて俺の腕がまわった。





「うわあ、こんなドラマみたいなことある?」
「少女漫画みたいだね」
「………」

確かに追いかけろと言った、だからこの結果になってくれて本当に良かった。だけどいざ自分が泣きじゃくりながら女に告白しているシーンを見るのは死ぬほど恥ずかしいものだった。
だけど、この世界から元の世界に戻った時には、ちゃんと俺からも伝えたい。「今の」俺の気持ちを。



「ん、…」
「んぁ…?」

起きると、部屋にはるりがいて俺に膝枕をしてくれていた。飛び起きると彼女はびっくりした様子であの可愛らしい笑顔を見せた。

「るり…?」
「おはよう一松、みんな気持ち良さそうに寝てたね」

花の様にふんわりと笑う彼女を見て、ああほんとに現実なんだと目頭が熱くなった。本物だ。堪らずぎゅっと抱きしめると、彼女は困惑しながらも優しく背中に手をまわしてくれた。

「えっ、なになに?一松みんな見てるよ恥ずかしいよう」
「るり、好き」
「ええっ?珍しいねそんなこと言うなんて、どうしたの?」
「好きだ」

今まで言えなかった分の言葉を沢山伝えたい。
こんな兄弟達の前で、恥ずかしげもなく。そんなことどうでも良くなるくらい。

「うわ、やめてよもう見てるこっちが恥ずかしいわ」
「ったくいい迷惑だよね」

今回ばかりは謝罪と感謝を心を込めて兄弟にしなければならない。だけど、それはるりを満喫してからにする。



【あとがき】
誰のリクエストでもなく、ただ自分の欲望の自己満のためだけに描きました。
設定色々と変更してしまったので、読んでてどうだったでしょうか?もしも〜のお話なので、御容赦下さい^^;
私は苦悩して後悔したり自信のない一松くんが大好きなので、どうしてもそういうテイストの一松くんになりがちなのですねw
映画とても面白かったので、またこんなの書きたいな〜とか思いついたらその時はまた寛容な心で読んで頂ければと思います。
back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -