*劇場版もしもの話「一松にも後悔があったとしたら」
色々設定変更あるので寛容な心で読んで頂ければと思います


こんな変な世界にきて、突然「誰かの後悔が原因」だなんて言われても困る。「一番後悔してるの一松っぽいよな」と兄弟達に言われ否定の言葉一つも出ない。だって、本当に俺だと思うから。

「あ、いちまつーっ!」
「ぐぁっ!」

路地裏から隠れて見つめる先は、高校生の時の俺と…百瀬るりだ。るりに後ろから抱き締められ、俺はそいつに首を締められる形になった為顔を真っ青にしている。

「はっ、離せよっ!」
「あ、ごめんごめん」

「……そういえば、この頃の二人は仲良かったよね」
トド松がぼそっと呟いた。その声が確かに俺の耳に、心にグサリと届いた。見ていられなかった、こんな景色。あの頃の俺たち、あの頃の言葉のやり取り、表情や笑い声。

「るりはほんっと一松のこと好きだったからなぁ」
「そうそう、なのに一松兄さんたら他の人には愛想よくする癖にるりちゃんにだけは冷たかったんだよね」

なんだよ、何で俺だけじゃなくコイツらも一緒にこんな世界に来ちまったんだよ。好き勝手言うコイツらにイラつきがおさまらない。
多分ここに来たのは、誰かの後悔が原因ってこと。んで、その原因は多分俺ってこと。そのまた原因があいつ、るりだってこと。高校生の頃、何故か慕われてしまった俺はやたらと好きだの付き合ってだの言われていた。

「普通、あんな可愛い子に迫られて?アピールされて?嫌がる奴なんかいねーだろ」

今現在隣にいるおそ松が言った。高校生の頃にも同じことをいつも言われていた。嫌だった訳じゃない、決して。ただ、思春期もピークを迎える頃小学生みたいに恥ずかしげもなく「好き」だとか「大好き」だとか真っ直ぐに言われることに、どうしていいのか分からなかった。
嬉しくなかった?そんなわけねえ。腕に絡みついてくるその華奢な身体も、細い生足も、サラサラした髪も、綺麗な指が俺に触れる度にドキドキして心臓が止まりそうだった。真っ直ぐに「好きだ」と言われたことに、俺は何を返したらいい?色んなことを求められているのだとしたら、俺はそんな完璧な人間ではないし。第一本当にこんな俺を好きになってくれたなんて、信じられなかった。いざ本当に付き合うことになったとして、本当の俺をどんどん知った彼女は「一松くんってこんな人だったんだ」と絶望されるんじゃないかって。人と向き合うことが怖い俺にとっては、答えなんか分からない。

「ねえねえ、アイス買って帰ろうよ」
「…俺はいいよ」
「帰ってゲームでもする?」
「お前、俺んち来るつもり?」
「…わ、私の家でもいいけど」
「……いい」

何がいい、だよ!お前本当は心臓破裂しそうだっただろ!見たかあのるりの期待している潤んだ瞳を。何やってんだよ馬鹿野郎。溜息をわざとらしく吐いた。大体、女の子にモテたいと思ってるくせに、めんどくせえんだよ過去の俺は。

「あ、このアイスおいしーっ!はい、一松にもあげるから食べてみて」
「いっ、いいって俺は…」
「えー?ほら、あーんしてあげるからさ」
「…お前さ、何で俺なんかに構うの?」
「え、」

彼女のアイスを持つ手が空間で止まる。彼女の表情もきょとんと固まった。公園のベンチで二人座る(主にるりが高校生の俺にべったりとくっついている)姿はカップルにしか見えない。

「それは、好きだからだよ」
「好きねえ…じゃあ俺がセックスさせろって言ったら、どうすんの?無理でしょ」
「………」

我ながらクソ野郎だと思う。女相手になんて事をぶちかましてんだ。るりは少し俯いた後、顔を赤らめながら確かに言った。

「…い、いいよ」

少しの沈黙が流れ、夕暮れの公園には誰もいなくて二人だけ。そういや、こんな話してたっけ。問題はこの後。

「…ハアッ!?!バッカじゃねーのおまえ…!」
「だって、一松のこと好きだもん…」

彼女がどんな気持ちで言ってくれていたのか、当時の俺には分からなかった。いや、分かっていた筈だ。だってこうして何度もハッキリ伝えてくれているじゃないか。「好きだ」と。それなのに、俺は。


「あれ?一松じゃん、相変わらず百瀬さんと仲良いなぁ、羨ましいわそんな彼女がいてく…」
「彼女じゃねえよ!!」

クラスメイトが通り掛かり、またその言葉にイラついた。静かな公園に、俺の怒鳴り声にも似た言葉が響いた。どいつもこいつも煩かった。彼女だなんだと冷やかしばかり。俺がもっと素直で普通に笑えるそんな性格だったなら、こんなガキじゃなかったら。

「お前さ、重いんだよ。なんだよ付き合ってもいないのに、セックスさせろって言ったらすぐさせるわけ?あぁ、それって重いんじゃなくて寧ろ軽いんじゃないの?」

しまった。言ってしまった、酷いことを。泣かせた。今度こそ嫌われた。そんなことばかりが思考回路を巡らせた。だけどるりは、笑った。

「あ、あはは、そうだよね」

それだけ言って、悲しげな笑顔のるりはその場から消えるように立ち去った。

「おまえ、ひでーな…」
「………」

クラスメイトが同情するような声で呟いた。
ここだ。ここから、俺達はもう視線すら絡み合うことも無くなったんだ。すれ違ってもまた以前のように抱き着かれるどころか、声も視線も合わない。まるで他人のように。
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