※劇場版ネタバレ感ありますご注意下さい






「今日はどこ行くよ?」
「あ、商店街んとこに新しくラーメン屋出来たってよ」
「お、まじか!じゃあ行く?」

毎日毎日、作り笑顔で顔面の筋肉が引き攣りそうだ。正直、放課後どうするとかそんなのどうでも良くて本当は早く帰りたい。な?一松も行くだろ?と声をかけられ油断していた俺ははっとする。

「あ、悪い今日ちょっと腹痛くて。パス」
「えー、まあしょうがないか」
「ごめんな」

この間ファミレスに行ったし、今日は休ませてくれ。
校門を出ると顔面の表情筋が一気に緩む。それと同時に深い溜息が腹の底から出たような気がする。

「あ、」

空から落ちた雫がぽつ、と顔に当たり見上げるとぽつりぽつりとどんどん降ってくる。そういや今日は雨予報だからって母さんに傘を持たされたんだった。折角持ってきたその傘は教室に忘れてきた。どうする、取りに行くか。めんどくせえ、だけどこれから本降りになりそうだし傘がないままだと流石に厳しい。少し早足で校舎へ戻った。

「あれ、一松」
「……あ、百瀬さん、どうしたの?」
「傘持ってきたのに教室に忘れてきちゃって」
「あ、俺も…はは、」
「え、そうなの、ふふ」

百瀬さんは隣のクラスで、トド松とよく話している女の子だ。誰とでも気さくに話しかける性格だから、会話を必死に続けなければという俺からしたらとても話しやすかった。一緒に階段を上がり、それぞれの教室へ向かった。

「一松って付き合い良さそうに見えて結構付き合い悪いよな」
「あー、今日もなぁ、明らか仮病だろそれってバレバレの嘘」

ドアを開ける手前だった。ははは、と俺の事で盛り上がっていらっしゃる様だ。「いち、まつくん」となんとも気まずそうな百瀬さん。いつの間にか傘を取ってきた彼女は俺の後ろにいた。

「私の傘いれてあげるよ」

それ以外は何も言わず黙って階段をおりていく。それにつられるように続いて歩き出した。いつの間にか外はしとしとと本格的に降っていた。はい、とかわいいピンク色のチェック柄の傘をぱんっと開いて俺を招き入れた。

「…かっこわり」

思わず声に出てしまっていた言葉だった。普通なら女子と相合傘ならテンションもぶち上がるというもの。だけどそんな気持ちにもならなかった。それくらい先程の言葉は胸に突き刺さった。だけどそんな自分にも腹が立つ。俺が先に、勝手にあいつらと距離を取って拒んでいたくせに。一丁前に傷付いてる自分に腹が立った。嘘を、しかもバレバレの嘘をついて。そんなの当然だよなと。

はっと隣を見ると百瀬さんは下を向いていた。慌てて「あ、あはは、ごめんね!忘れて、今の」と笑顔で取り繕う。傘を持って歩いていた百瀬さんは、突然立ち止まった。傘からはみ出た俺は少しずつ雨に濡れていく。

「嘘つくな」
「え、」
「嘘つくな。そんなつくり笑顔やめなよ。外面ばっか気にして」
「……」

何も言えなかった。まさか百瀬さんからそんなこと言われるなんて思っていなかったから。そして全て正論だったから、何も言い返せなかった。

「そんなこと…」
「そうやってまた仮面被ってるの」
「………あんたに…、あんたに何が分かるんだよッ!」

まだぎりぎりの笑顔を貼り付けて否定しようとしていたのに。言い切ってから「しまった」と気付く。だけど彼女は、にっと太陽みたいに笑った。こんな雨の中不釣り合いなくらい。

「そうかそうか、それが本当の君か」
「……」

百瀬さんは歩き出すとまた俺を傘に入れてくれた。そして少し濡れたボサボサの髪を優しく撫でた。

「よしよし、しんどかったね」

途端、じわりと涙が目頭に溢れ出す。そんな俺にも構わず、彼女はどこか嬉しそうに笑っていた。

「はー、かっこわり…」
「うんうん、でも私は嫌いじゃないよ」
「は?」
「それが本当の君なんだから、それでいいじゃん。ありのままで」

さっきまでこの状況何とも思ってなかったのに、急に相合傘をしていることに意識してしまう。何だ、これ。

「そんな一松くんでも、私は友達でいてあげるよ」
「……は、上から目線ですか、そりゃどうも」


友達、じゃ嫌だ。と思ってしまったのは、君がありのままでいいと言ってくれたからなのか。
友達は嫌だと、それを言う勇気はない。弱虫でかっこ悪いのが俺だから。

その勇気が今は、ない。
だからいつか君に言えたらいいと思う。

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