こんな世界大ッ嫌いだ。

僕にはクソでクズな兄弟が五人もいて、自分もその中の一人なんだけど。その中の兄弟の一人に惚れているこれまたクズみたいな女がいる。頬を赤らめて「カラ松くん!カラ松くん!」と口を開けば「カラ松くん」。この兄弟の誰かって時点で頭涌いてるとしか思えないけど、その中でもあんなナルシスト好きになるとか視力も脳みそも穴あいてるんじゃねえの。あのクソ松はお前なんか見てねえよ、自分が好きで鏡しか見てねえんだよ。

クソ松は見ててイラつくくらい鈍感で、るりがいくらカラ松にアピールしようが何も気付いてない。僕も別に女の変化に敏感でも何でもないしどちからというと何もわかんねー方だけど、それでもるりは分かり易い。それは多分、僕がるりをいつも見ているからなんだけど。髪型を変えても新しい服を着ても、それを例え僕が可愛いと思ったとしてもるりからしたらどうでもいいことだろう。

ある日家に帰ったら玄関に家では見ることのない靴があって、小さい女物の靴がすぐに「るりのもの」だと分かった。家に上がって戸を開けるとるりは居間に座り込んでいて、いつもはカラ松にべったりか他の兄弟と話しているのに一人きりだった。

「他のみんなは?」

後ろから声をかけるりが振り返ると僕は立ち止まった。何故って、るりが泣いていたからだ。泣きじゃくるとか嗚咽をもらしているとかじゃなく、ただただ静かにその大きな瞳からぽろぽろと涙を流していた。

「あ、みんな、出掛けてて」

何があったかなんて知らないけど、予想はつく。きっと頑張っても頑張ってもカラ松には自分の想いが届かなくて自分がどれだけカラ松の眼中にないのかをまた思い知っていたんだろう。るりはレースのついたカーディガンの袖口で涙を拭き取る。

「僕にしろよ」なんて言えたらいいのに。そんなこと口が裂けても言えないけど。もし言えたとしたって僕に気持ちが向く訳がない。もし、もしこいつがカラ松じゃなく僕の方が先に出会っていたら、何か変わったんだろうか。いつも傍で見ていたように、こいつの瞳には僕が、僕だけが映っていて。「一松くん!」と口を開けば僕の名前ばかり呼んだりする、そんな風になっていたんだろうか。

こいつも報われない、僕も報われない、そんな腐った世界クソ喰らえだ。こんな世界大ッ嫌いだ。

「あ、お菓子作ってきたんだけど…一松くん食べる?」

悲しげに眉尻を下げて、可愛くラッピングされた焼菓子を僕に手渡した。何、これ。何だよこれ。クソ松に作ってきたお菓子だろこれ。それを渡せなかったんだか何だか知らないけどそれを僕に渡すって何だよ。僕の気持ちも知らねーくせに。反吐が出るよ。

僕はラッピングされた焼菓子をぐしゃっと握り潰してるりを畳に押し付けた。痛いくらいにるりの手首を握って。顔を見るとすげーびっくりしてて、すげー怖がってて何か笑えた。

こんな世界、壊してもいいよね。
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