はーっと息を吐くと空気中に漂う二酸化炭素が姿を現しては消えていく。空を見上げると星空が一面に広がっているのが見える。思わず立ち止まって「うわぁ、」と声を上げると隣を歩いていた一松が数歩先で振り返った。

「何?早く行くよ」

「一松、ほら上見て上!綺麗だよ」

感動する私に何の表情も変えず「ふーん」とちらりと目線を上に泳がせただけだった。一松は相変わらず物事に興味が無い人だなぁと考えながら、置いていかれそうになり少し小走りで追いつく。

何故こんな寒空の下(しかも夜中)で一松と歩いているのかと言うと、宅飲みをしていた六つ子兄弟に呼ばれ一緒に飲んでいたが酒やらつまみが足りなくなった為の買出し班にさせられたのだ。私としては一松と二人きりでお出かけが出来て超絶ウルトラスーパーハッピーなのだが。

「っくしゅん!」

「…だから手袋してこいって言ったじゃん」

「だって、」

あの兄弟ときたらじゃんけんで買い出し班を決めたのはいいとして、あれ買って来いだのこれ買って来いだの注文が多いから…!手袋なんてするの忘れちゃったんだもん。

一松がふと立ち止まると、自分がしていたシンプルな黒い手袋を両手から外し私に強引に渡してきた。

「ん、」

「えっ、でも一松寒がりなのに」

「うるさい」

ぶっきらぼうだけど、こういう所が優しくて好きなんだよなぁ。手袋を押し付けそそくさと先を歩く背中を見つめながら、私は申し訳なさと何よりも嬉しさで胸がいっぱいになった。あ、そうだ。
私はまた小走りして一松に追いつくと、一松の右手に手袋をはめた。もう片方は私の左手に。

そして手袋をしていない手で、一松の手のひらをぎゅっと握った。

「………なに、これ」

「こうしたら、二人とも暖かくなるでしょ」

そう言うと一松は少しむすっとしたように顔を赤くしてまた先を歩いた。本当に感情表現が下手だなぁ。それでも、繋がれた手はそのままだった。


「どう?あたたかくなった?」

「……まだ」

「…そっか、私も、まださむい」


暖かいねってお互い素直に言えたら手も繋げたけど、私たちは寒いねと言って距離を縮める方法しか知らない。

だからきっと私も彼も、心も体も暖かくなっても。

きっと「まださむい」と言い続ける。
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