好きだから、言えないことがある。
よく「ねーねー!俺のこと好き?」って十四松に聞かれる。トド松やおそ松にも。私はそれに対し「うん、好き!」と笑顔で答える。チョロ松もカラ松も好き。聞かれてないけどそう言うとチョロ松は「何だよ急に馬鹿じゃないの」って言いながらも照れるし。カラ松も「フッ、当然だろ…お前の愛は俺にしっかり届いてるぜ」とか言ってるし。

でも。

四番目の兄弟松野一松には言ったことがない。一度も。周りは知らないだろうけど、私はずっと一松が好きで、本気で好きだからこそ軽々しくその二文字を伝えることが出来ない。一松はそんなこときっと気にしてもいないだろうけど。いつか伝えられるんだろうか、一松に。


「るりちゃんさ、一松兄さんのこと好きでしょ」

「………はっ!?」

突然心の中を読んできたのはこのゴールデンエスパードライモンスタートッテ…

「今何か失礼なこと考えたでしょ」

「ひいっ!?そそ、そんなこと、っていうか、なんっ」

落ち着きなよ、と何故か再び心を読んだエスパー(略)トド松。私は動揺を隠せずにいるというのに。

「だって、いっつも一松兄さんのこと目で追ってるし。分かりやすいと思うけどな。まああの兄弟の中じゃ誰も気付いてないと思うけど」

確かに誰も気付いていなさそうだし、気付かれていないと思っていた。けど、トド松にはバレバレだったらしい…。まあトド松は応援してくれているみたいだし、結果的には良かったけど。

「好きって言っちゃえば?」

「うーん…って、はっ!?」

「一松兄さんに」

「なっ、むっむり!そんなっ、」

一松に、好きなんて。そりゃあ一番伝えたい相手だし、誰よりも好きだけど。だからこそ言えないのにこのドライモンスターには乙女心がきっと分からないんだっ!そんなことを考えていると「落ち着きなよ」と本日二度目の注意を受けた。

「だって、いずれは言うんでしょ?言わないの?言わずに終わるわけ?もしかしたら別の女の子に取られたりしちゃうかもよ?(天地がひっくり返っても絶対に有り得ないけど)」

「う…」

そんなのは嫌だ。
この友達の関係が崩れるのは怖い。もうここへは遊びに来れないかもしれないし、気まずくなって前みたいに遊ぶことも出来なくなるかもしれない。けど…トド松の言う通りもし他の女の子に一松を取られるのは絶対に嫌だ。もし結果がだめだったら…考えたらそれだけで怖いけど、それでも自分の気持ち、伝えたい。私こんなに一松のこと大好きなんだよって、知ってもらいたい。一松に私だけを見てもらいたい。名前を沢山呼んでもらいたい。一松に触れたいし、触れられたい。

「私…一松に言う。気持ち伝える」

私が漸く決意したことにトド松は少し驚いた顔をするとすぐに微笑んだ。

「うん、頑張れ」


数日後、トド松から「一松兄さん今日家でひとりだよ、頑張れ」とメールが来て松野家へとやって来た。お邪魔しまーす、と居間へと上がると一松は炬燵で暖まってテレビを見ていた。

「え、どうしたの」

「あ、遊びにきた…」

つい緊張してしまって声が震えてしまう。気付かれないように普段通りに接しながら一松の後ろへ座った。

「寒いから炬燵入れば。今日皆いないけ…」

「一松」

一松の言葉を遮って名前を呼んだ。一松は振り返らないままみかんを剥き始める。

「あ?なに」

「私、さ…」

少しの沈黙の後に深呼吸をして言葉を続けた。

「一松のこと、好き、なんだよね」

「………」

一松の肩が少しぴくんと反応して、背中越しだとどんな顔をしているのか分からない。

「お前、誰にでもそういうこと言うのいい加減やめた方がいいよ、勘違いされるから」

先程よりも少し低くなった声の一松に泣きそうになる。

「か、勘違いとかじゃなくてっ、皆のこと、好きだけど…友達として好きで、一松のことは…恋人にして欲しいっていう、そういう好きなの…」

「だって俺には一度も言ったことないじゃん、そんなの」

「…本当に好きな人には言えなくて…でも、嘘じゃないからっ、」


信じて欲しい、と一松の腕を引いて顔を見ると耳まで真っ赤にした赤面の一松と目が合った。

「へ…」

声の印象からイメージしていた一松の表情とは真逆で、拍子抜けをした私は間抜けな声を漏らした。一松は慌てた様子で私に掴まれた腕を振りほどいた。

「一松、顔真っ赤…」

「ちっ、ちがう、これは…炬燵で!炬燵で逆上せて…っ、別にお前のせいとかじゃ、」

「………」

そんな一松の様子を見た私は何故かほっとして、改めて心から思った。一松のこういうところが可愛くて、堪らなく好きだなあって。そんな反応されたらさ、私期待してもいいよね、一松。


「…やっぱり、一松が好き」


これからは、他の人には言わないよ。

back


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -