大人って最高だよな。酒も飲めるし煙草も吸える。まあ高校の頃から一松とはよくこそこそ煙草吸ってたりしてたけど。でもほら、堂々と吸える。AVだってレンタルして見れる。パチンコだって競馬だってやれる。あー、ただ働かないと周りに煩く言われんのは嫌だけど。一生遊んで暮らしてーよ。そんなこと言えば親やチビ太なんかは怒るけど。
あ、そうそうもう一人。幼馴染みのるりも「何言ってんの馬鹿っ!」って怒る。昔はよく一緒に風呂入ったり、泊まりに来て一緒の布団で寝たり、浴衣着て地元の縁日行ったり、毎年正月は一緒に過ごして、家族みたいなもん。
まあ、俺は一度だって家族だとか妹みたいだとかそんな風に思ったことねーけど。高校卒業して、るりは大学に進んで、大学も卒業して就職して、俺達はなーんにも変わらずニートのまま。大人になって、るりは酒は弱いけど一緒に宅飲みしたり居酒屋に行ったりした。酒を飲みながら「会社でミスしちゃって…」と泣く時もあれば、「明日先輩が焼肉奢ってくれるんだー!」と子供みたいにはしゃぐ時もあって。そんな他愛もない話をして笑い合って、当たり前に続くんだと思っていた。

また今日も兄弟六人揃ってるりと行きつけの居酒屋に行って、飲み始めて暫くした後「あのね、」とるりが切り出した。落ち着かない様子で、目だって泳いで、口をもごもごとさせている。どうせまた会社でミスでもして落ち込んでいるんだろう。しょうがねえなあ、また慰めてやるか。何年の仲だと思ってるんだよ、お前のことなんか全部知ってるんだよー?俺は。


「あの、ね、結婚するの。」


さっきまでガヤガヤとしていた店内が急に静かになった、気がしただけだった。俺の耳には途端に他の客の話し声だとか、店員のかけ声だとか、店内に置いてある付けっぱなしのテレビの音とか、そういう雑音が何も入ってこない。六人とも一瞬黙ると、チョロ松が「えええ!?!はっ、けっ、こん!?誰が!」とテーブルに身を乗り出した。トド松が「チョロ松兄さんうるさっ!」と思い切り嫌な顔をする。

「わ、わたしがだよ」

「えっ、いや、お前彼氏いたの…?ていうかトド松お前冷静過ぎだろ…知ってたの?」

「いや知らないけど、るり可愛いんだし彼氏いたっておかしくないでしょ」


「幼馴染みが結婚かあ…」感慨深そうに他の兄弟達は驚きつつも少し感動していて、今日は俺達の奢りだななんて盛り上がっている。

「ねえ、おそ松兄さ…」

周りが俺の顔を見て表情が固まった。え、何、どうした?なんでみんなそんな顔してんの?そう言い返そうとして気が付いた。視界がぼやけてそこから溢れる液体がぽたぽたと机に染みを作っていた。視界の隅でるりが驚いてこっちを見てるのが分かる。


「な、何も泣かなくたっていいのに!」

「仕方ないよ、おそ松兄さんが一番るりを可愛がってたんだから」


パーカーで目元をごしごしと拭って、にかっと笑った。

「いやー、びっくりしたよお兄ちゃんは!何だよお前彼氏いたのかよー、困るなー、そういうことはちゃんと報告してくれなきゃ」

俺、今うまく笑えてるかな。
何が何年の付き合いだよ、お前のことなんか全部知ってるだよ、ふざけんな。何にも知らなかったじゃん、俺。そんな奴やめて俺にしろ、って言えたらどんだけいいか。でも言えねーよ、今更。

「煙草吸ってくるわ」

居酒屋の外に出てポケットから煙草を出して吸う。

「………不味…」

いつも吸っていた煙草も、何でか美味くねえ。おっかしーな、こんな不味かったっけ。思いっきり吸ったら噎せてげほげほっと咳が出る。

「…っけほ、あー…不味くて涙が出てきた、」

見上げると星空がキラキラと輝いていて、子供の頃皆やるりと縁日に行った日のことを思い出した。
煙草も酒も競馬もパチンコもAVもいらねーよ。こんな、るりと離れることになるんだったら。

大人になんか、なりたくなかった。
大人になんか、なれないままでいい。
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