今日は松野家に遊びに来て、みんなでトランプしたり映画を見たりして過ごしてたんだけど酒もすすんで日が変わる頃にはみんな寝てしまっていた。みんなが雑魚寝している中、わたしはまだ起きていたけれどうつらうつらと睡魔が襲ってきて瞼もとじかけている。誰かがむくりと起きてゆっくりと立ち上がった。
「あれ…どうしたの一松、トイレ?」
いつも半分しか開いていない瞳が、寝起きで余計に目つきが悪く見える。…(口が裂けても言えないけど。)一松は眠そうに目を擦りながら財布をジャージのポケットに入れた。
「喉渇いたからコンビニ行ってくる…」
「あっ、あたしもほしい」
「えー……何でもいい?」
「うん、ありがとう」
気だるそうに襖をあけ家を出ていった。雑魚寝をしている他五人にブランケットをかけて、机に突っ伏して顔を埋める。ああだめだ、もう眠気が限界…。一松が飲み物買って帰ってくるまで起きていられそうにないや。
暫くして寝静まった部屋に少しの物音が聞こえて、寝ぼけたまま「ああ一松が帰ってきたのかな」と察した。けどごめん…眠過ぎて起きれないよ…。
「…るり?」
「………」
「飲み物買ってきたけど」
「………」
少しの沈黙の後、溜息をついた一松はコンビニの袋をテーブルに置くとわたしの隣に座った。(音がした)なんだか半分だけ起きているせいで今が夢の中なのか現実なのか分からなくなる。ふと頭を大きな掌が包んでぎこちなく撫でられた。こんなに優しく撫でられたの初めて…。これも夢なのかな?どうしてか浮かんだ顔は一松だった。こんなに優しく触れられたことなんてないのに、何でだろう。
「んー、いちまつ…」
「っ、そういうの、ずるいだろ…」
唇に柔らかいものが当てられて、この感触は夢の中じゃないって分かって瞼をゆっくりとあけた。…うつっていたのは、顔を真っ赤にした一松だった。顔と顔の距離が数センチしかない為、視界いっぱいにうつる一松。寝ぼけた頭と、この状況に思考が追いつかなくて、でもゆっくりと確実に目を冷ましていった。と、同時に心臓が早くなっていく。
「おっ…おまえ、お、起きて…!」
「………いや今起きたんだけど…一松…今キス」
「ああああああああああああ言うんじゃねええええええええこの雌豚!!!!」
一松は赤い顔を更に真っ赤にした。
ああ、さっきのやっぱり夢じゃないんだ。あの優しい手で頭を撫でたのも、優しくてぎこちないキスも。
「一松、わたしのこと好きなの?」
「はっ!?ななななななにいって…!」
「じゃあ、一松は好きでもない女にキス出来るんだ」
「〜〜〜っ…すっ、好きだよ…悪いか」
一松は拗ねたように唇を尖らせて、好きだとはっきり言った。わたしは嬉しくなって一松の冷たい手を握り、にやりと笑う。
「ね、もっかいして」
「はっ!?」
「さっきは寝てたから。今度はちゃんと起きてる時にして」
困惑する一松のことは気にせず、顔を少しだけ突き出して目を瞑る。少しの間の後、今度はさっきより長いキスが降ってきた。
「わたしも、好きだよ」
この時、十四松以外の松野兄弟が起きていたことをわたしたちは知らない。
(あー、俺もるりのこと好きだったのに…)
(グッバイ…俺のファーストラブ…)
(どうしよう、この状況…起きるに起きれない)
(んー、むにゃ…)
(一松兄さんwwww赤面ほんとウケるwwww写メ撮れないの辛いww)
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