体調が崩れ始めたのはいつ頃だろうか。
両親は咳き込む度に心配をした。
結局、静には兄らしい事をひとつもしてやれずに離れ離れになった。いや、俺が望んで離れたのだから離れ離れという表現は間違いか。一人で強くなりたかったし、兄の為を思ってか、俺の分まで毎日必死で練習する静を見たくなかった。
そんな静に無償に腹が立つ時も多々あり、冷たく当たっていた。
なんて情けないと思った。あらし、あらし、と慕う静に嫌悪感を抱いていたのだ。
成長するにつれて、俺と静は言葉も視線も交わさなくなった。
静はおとなしく、学校から帰ると近くの川原でヨーヨーの練習をするのが日課らしい。
ある日静は言った。
「絶対あんたを超えてやる。」
いつの間にこんな可愛げのない妹になったのだろうか。
鋭い眼差しの妹の後ろには、真っ直ぐな眼をした少年が満足そうに微笑んで立っている。
あぁ、君が、君が静を変えたのか。
でも俺は君たちと同じように仲間と協力なんて綺麗な事はできないよ。最強のスピナーは一人で充分なんだ。
でも、静の泣いている顔はみたくない。
うん、なんとなく。
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「嵐、」
「…しずか」
「よく眠れた?
お腹空いてるようだったら何か作るけど。」
柔らかく微笑んだ静をただぼーっと見ることしかできなかった。
あの頃は、また普通の兄妹に戻れるなんて思っていなかったから。
でもまだ少し照れ臭い時はある。
特に静がね。
「いつもおかゆしか作れない静が今日は何を作ってくれるのかな。」そう言って真っ黒な髪を少しだけ掬った。
「嵐ってほんとに意地悪になったわよね…。」
今日もおかゆだけど、嫌なら食べなくていいわ!とぶっきらぼうに部屋を出て行く妹は、小さい頃に比べて随分と逞しくなったものだ。
昔のように慕ってくれたら、少し嬉しいけど。
申し訳ない程度に鳴ったお腹をきゅっと押さえて、ちょっと短気な妹を待つ。
(似てないふたご)