鬼道はたまに突拍子もない時がある。
それは、食事をしている時だったり、2人でのんびりしている時だったり、たまたま目が合った時だったりと、様々なんだけど。
休日の昼下がり、お腹いっぱい昼食を食べてとても満足だった。
今日は鬼道がご飯を作ってくれたので、あたしが食器を片付ける。
流しに二人分の食器やカップを浸けながら、時計に目をやった。
少し遅めの昼食だった為、ちょうど14時を回ったところだった。
暖かい部屋は眠気を誘う。
食器を洗うのは後回しにしようか。しかし、後回しにしたら絶対に面倒くさくなるのが落ちである。
…鬼道に、お願いしようか。
こんな事を考えている間に洗ってしまえばそれで終わりなのに。
嫌なものは頑として嫌だと思う性格なのだから仕方がない。
「ねー鬼道、」
出来るだけ甘えた声で、ソファーに腰をかけている彼に声をかける。
「…なんだ、食器は洗わんぞ」
「あは、ばれてた?」
すぐにわかる、と鬼道は笑った。
眉毛を少しだけ下げて笑う時の顔が、凄く好きだ。
自惚れているのかもしれないけれど、きっと自分だけに見せてくれる優しい表情の筈だから。
そう思ったら、自然と顔が熱くなるのを感じた。
「塔子」
ちょいちょいと手を動かして、こっちに来いと招くので、素直に鬼道の方へと向かう。
食器洗ってくれるのかな。
「何?」
「好きだ」
「、…は?」
「好きだと言っているんだ」
「それは、わかる、けど」
こう突拍子もなく好きだと言われる事は、今始まった事ではない。
しかし、まさかこのタイミングで言われるなどとは思ってもいなかった。
結構、恥ずかしいんだ。
改めて好きって言われるの。
それと同時に、なんだか凄く申し訳ない気持ちになってしまう。
鬼道の相手は、本当に自分でいいのだろうか、と。
「…鬼道は、いつも好きって言ってくれるけど、あたしは鬼道が思ってるほど完璧な女じゃないよ。…鬼道と釣り合わない、くらい」
だから、あんまり好き好き言われると、
「俺は、塔子だから好きなんだよ。…別に深い理由なんていらないと思うのだがな」
お前だから好きなんだ。
あたしの欲しかった言葉をもう一度囁いて、鬼道は額にキスをしてくれた。
「あたしも、鬼道だから、すき」
食器のカチャン、と小さく崩れる音が聞こえた。
舌足らずな幸福