特に何もする事がなかったので、2人でテレビを見ていた。
そっと右を向けば、ニュース番組をぼんやりとつまらなそうに眺めている塔子の横顔がある。
話す事もない為、無言の時間が続く。 別に、その時間が苦というわけではないのだが。
突然、塔子が部屋を出ていった。
何かと不思議には思ったが、特に気に掛ける事なく5分、10分が経過し、20分近くが経った所で何だかおかしいという事に気が付いたのだ。
テレビを消し、耳をすましても物音一つ聞こえない。
とりあえず、部屋を出て真っ暗な廊下を見渡した。
思わず身震いをするほどに、部屋と廊下の温度には差があった。
暗い廊下に目が慣れるのには、そう時間は掛からず、突き当たりの隅で小さく蹲っている塔子を見つけた。
こんなに寒い廊下で、一体何を。
俺はゆっくりと近付き、塔子の目の前に腰を下ろす。
その気配に気が付いたのか、塔子は少しだけ肩を揺らした。
「どうしたんだ」
あまり気の利いた言葉をかけてあげられないと、自分でもわかっている。
"こういう場合"、どう接すればいいのかがよくわからないのだ。
少し時間を置いてから、塔子がゆっくりと口を開いた。
「部屋さ、暑いじゃんか」
「…暑いなら言えばよかっただろう。ここでは風邪をひく。 部屋の温度を調節するから戻ろう」
「そうじゃ、なくて」
塔子の言いたい事が、いまいち理解できない。
冷たい床が、身体にしみる。
俺は、ただひたすら塔子の次の言葉を待った。
「部屋あったかいと、鬼道に、ぎゅってできない」
「…は、」
「寒ければ、くっつけるだろ?
なのに鬼道、部屋凄い暑くするから」
塔子が普段では考えられないような発言をした為に、一瞬頭が真っ白になった気がした。
暑くても、寒くても、抱き付いてくれて構わないのに。
「塔子、お前はいつからそんなに素直になったんだ」
微動だにせず蹲る塔子を、覆いかぶさるよう抱き締めた。
背中に回る、塔子の冷たくなった手の感触が、妙に心地よかった気がする。
「鬼道あったかい」
最後に小さく「カイロみたい」と聞こえたが、気のせいという事でいいのだろうか。
さむいね